さぁ、新しい世界に旅にでよう。
チケットを眺め席を確認する。
事前に自分で予約しているんだから、まぁだいたいはわかっているしいつも同じ位置を取るのだから確認するまでもないのだけれど
でもやっぱり心配性な私は、パスポートからはみ出すように挟んだチケットの座席と頭上に見える番号を照らし合わせながら進んでいく。
あぁ。ここ、ここ。
私は搭乗時の長蛇の列が静まってから並ぶから、私の席の隣の人はいつも先に座っている。
すいません。奥の席です。
いつも窓際を予約するんだから早く搭乗してしまえばいいんだけれど、これから始まる旅に私を連れて行ってくれる魔法の乗り物に乗る前にはどんな人が同じ時間を共に過ごすのかすこし眺めていたくなってしまう。
ありがとうございます。
手荷物はカバンと手提げを1つづつ。前の座席の下に押し込む。
窓際の席は荷物棚に入れてしまうと出し入れが面倒だから、私はいつも前の座席の下にどうにか押し込む。
ここでひと段落。
枕をお尻の下に敷いて、座り心地を整える。
ブランケットはお腹に巻いて、シートベルトを上からつける。
前の座席のポケットに入っている雑誌を一通り眺めて映画をチェック。到着までの時間から逆算してスケジュールを立てる。
今回のフライトはとても上出来だ。翼の真横。私が一番好きな座席。
この席を予約できるかできないかで飛行機の中ですごす時間のモチベーションがどれぐらい変わってしまう事か。
でも今回の私のフライトは完璧だ。
翼の眺められる席で、しかも天気もいいのだから。
はじめて飛行機の窓際に乗ったのは10年以上たった今でも忘れない。高校生の修学旅行でNYに行ったとき。
隣がサンタさんみたいなおじさんだったらどうしよう…
と、飛行機に乗るのがちょっと憂鬱だったにも関わらず、いざ乗ってみれば隣は友達だし、何より窓際の席でとても有意義な空の旅だった。
しかも、その飛行機の窓から見えた夜の空は最高だった。
星を見下ろす。そんな経験をしたことがあるのは宇宙飛行士か私ぐらいな物じゃないかと思う。
今となっては、下に見えたのは星ではなくこの空の下で暮らす人々の生活の明かりだという事がわかったけど、それでもあの時ほど美しい星空に息を呑んだことは私の人生で一度きりしかない。
高校生の女の子にとっては、言葉通りの夢みたいな世界だった。
その時から私は、飛行機から見える景色に恋をした。
それは夜であったって、昼であったって変わらず美しい景色を見せてくれるという事ももう何十回と飛行機を乗っているうちに理解した。
いつだって現実とはかけ離れた夢みたいな景色だ。
そんな事を考えていると聞こえてくるのが、CAさんの整ったしなやかな声。
皆様にご案内いたします。この飛行機はまもなく離陸いたします。
どうやら私の翼は準備ができたみたい。
さぁ、新しい世界に旅にでよう。
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