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優しくなれるまで、もう少し一緒にいて

「ねぇねぇ、誕生日プレゼント何がいい?」
君はスマホを握りしめたまま、真っ直ぐこっちを見てそう言った。
「そういうのってサプライズじゃないの?」
少しだけ戸惑いながら僕はそう返した。
「だってさー、そんなに欲しくない物貰ってもさー」と君はスマホに目線を落とした。
「何でも嬉しいよ、そうやって考えてくれることがまず嬉しいから」
そう言った僕に「そういうの言ってても、結局はハードル上がってるんだよなぁ」と君は頬を膨らませながら僕の隣に座りスマホを見ていた。

「もうそろそろ誕生日やね!5月3日!ゴミの日!」
自分の誕生日を“天使の日”だと言っていた君は僕の誕生日を“ゴミの日”だと笑っていた。
「そういうのさ、僕に言うのはいいけど他の人に言うのやめときなよ」と伝えた僕に「言うわけないやん」と君はケラケラ笑ってた。

君は僕の前で本当によく笑う人だった。
それと同じくらいよく泣く人だとも思っていた。

誕生日の当日、君のアパートに入った瞬間「これ誕生日プレゼント!開けてー!」と大きなダンボールを渡された。
ダンボールの中には、仕事で使う鞄が欲しいという僕のリクエスト通りの鞄が入っていた。
「何でも嬉しいよ」と言う僕に対して、君は「何が欲しいか言ってくれないともう会わないからね!」と譲ることはなかった。
結局僕が折れてしまい、何のサプライズ感もない誕生日プレゼントを貰った。
「どう?どう?いい感じ?」と目をキラキラさせながら僕の反応を待つ君が可愛くて思わず笑ってしまった。
「なんで笑うのー」と不思議そうに言う君に「めちゃくちゃ嬉しい、ありがとう」と伝えた僕は君からプレゼント以上に幸せを貰っていたことに気づいたんだ。

今でも君から貰った鞄は大切に使っている。
「まだそれ使ってんの?」と君は笑うかもしれないけど、僕は買い換えるつもりもない。
いつかまた、君が「誕生日プレゼント何がいい?」と聞いてきた時には僕はこう言おうと決めている。

「新しい鞄が欲しいかな」
「あ、あともうひとつ」
「もう少し一緒にいて」

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