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想像と想像と想像 #14

「2日酔い」

この世には、辛すぎる病気がいくつもある。
インフルエンザ、コロナ、偏頭痛、恋の病。
あげていけばキリがない。
その中で、僕が最も忌み嫌うものが
「hangover」
そう、2日酔いである。
今日はこの壮絶なノンフィクションをお届けしよう。

朝6時、国分寺駅に降り立った僕は全てを理解した。
これはどう足掻いても2日酔いになる。
定められた運命に愕然としながらも、今日の計画を練りながら家路を急ぐ。

経験則から学んだことではあるが、2日酔いになってからその日の行動計画を練るのでは基本的に遅すぎる。
気持ち悪さと頭痛から正常な判断ができなくなり、社会性を伴わない選択をしてしまうからだ。

そんなわけで今日の3限と4限を切ることを選択し、なんとか家まで辿り着いた僕は、残された体力と気合いを振り絞ってシャワーを浴び、ベッドに転がり込んだ。

ふと目を覚ますと11時。
なんだ。3限いけるじゃん。
そんなことを考えながらお茶を飲むために起きあがった。
しかし、冷蔵庫に手をかけた瞬間猛烈なお腹のモヤモヤと頭痛に襲われた僕は今朝立てた計画に素直に従うことを選び、もう一度眠りについた。

次に目を覚ますと15時45分であった。
計画通り3限と4限を切ることに成功した僕は、唸りながら昨日の天皇賞の動画を視聴していた。
そこで僕は、自分が重大なミスを犯していることに気がついてしまう。

そう、今日はカットの予約を入れていたのである。
予約した時間は17時。
まだすっぽかしてはいないものの、ベッドから起き上がれる気がしない。
呑気に月曜の17時に予約を入れやがった先週の自分を呪いながらも、気合いだけで寝癖を治し、着替えを済ませた。
これで予約の時間になんとか間に合わせることができる。
問題は、1時間弱もじっと座っていられるかということだけであった。

ひたすら目を瞑って波が来ないようにしておこう。
そう決心し、えげつないほど猫背になりながら美容院へと向かった。
席につき、手短に要望を伝えると、無事カットが始まった。
少し自分の状態が上向いてきたことに安堵しながら目を瞑る。
これならなんとかやり過ごせそうである。

「教育実習はどうでした?」

目を開けると、2ヶ月ほど前にカットしてくれた店員さんの無邪気な笑顔がそこにはあった。
僕は得意としている愛想笑いを作りながら、なんとか実習の話を済ませる。
話を済ませると、僕は再び目を閉じた。
もう喋りかけないでくれという最大限の意思表示である。

「私も学校の先生やってみたかったんですよ」

再び目を開けると、また無邪気に笑いながらこちらに話しかけてくれる店員さんの姿があった。
大変ありがたいことである。
こちらが気まずくならないように、話題を僕に寄せて話してくれているのだ。
美容師の鏡ともいえる人なのだろう。
ただ、今だけは黙っていて欲しかった。
心の底からそう思ってしまっている僕。
昨日調子に乗りすぎたことだけでなく、そんなことを考えてしまっている自分を客観視し、盛大に自己嫌悪に陥った。

眠ることを諦めて、話すことに徹した僕はなんとかシャワーまでたどり着いた。
ここでまた、新たな刺客に襲われた。
体を倒す可動式ソファである。
ゆったりと倒れているのだろうが、倒れていくモーションに僕の2日酔いは刺激されてしまった。

もうだめだ。
吐いてしまう前にこのタイミングではあるがトイレに行こう。
そう決心した矢先、僕の2日酔いは消し飛んだ。

この美容師さんは首のマッサージから入るタイプの美容師であった。
首のマッサージが始まると、頭の中に溜まっていたアルコールが全て体内で循環を始めた。
頭の重さから解放されると、2日酔いは随分と楽になった。
その後の僕は今までの失態を取り返さんばかりの勢いで会話にのめり込んだ。
僕が美容師であったなら、大分引くくらい話した。

このような壮絶な1日を過ごすはめになった今日。
心の底からお酒はもういいと思ったのはほんの1時間前の出来事である。

ただ、今ではもう次の飲み会が楽しみでしょうがない。

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