PHRに至るまでの医療情報の歴史

最近PHRという言葉をよく耳にするが、これは「Personal Health Recordの頭文字をとった略語で、個人の健康・医療・介護に関する情報のこと」を表し、コンセプトとしてはエンドユーザーである「患者自身が」情報を管理するということになっている。

ただ、昨今デジタル庁が始動したり、ハンコ業務が不要になったりと重い腰を上げて動き出している政府だが、PHRという事業自体はなかなか進んでいないのが現状。

そもそも診療情報というのは、当然昔は紙カルテで管理をされてきた。その後電カルによって、電子データとして保存されるようになり、今度はそのデータを広く利用するために、標準化しようという動きが生まれた。診療データの標準化というのは、時を遡ること15年ほど前、2007年にはプロジェクトとして既に生まれていた。(オンライン診療がまだ遠隔診療という名称で走り出したのもちょうどこのころ)

アメリカ、カナダを主体として、「HL7 CDA(health level 7 clinical document architecture)」という「電子カルテを含む、診療に関する文書(Clinical Document以下、診療文書)を電子的に交換する際の主としてXMLによる表現を定めた標準化」を目的とした、医療情報の相互運用に関する機関が脚光を浴びた(2011年当時、CDAの最大ユーザーはメイヨークリニック)。HL7 CDAの標準化を進めるためのインフラストラクチャーを構築する目的で平成18年には「厚生労働省電子的診療情報交換推進事業」(SS-MIX:Standardized Structured Medical Information eXchange)が開始された。SS-MIXは、記録された医療情報の電子化・標準化に向けた啓発活動の一環として、具体化したパッケージウェアの普及を行うものであり、
・パッケージウェアの開発
・ドキュメントの整備
・各ベンダによる同一の規格を実装したシステムの開発と普及
を行う事業となっている。

いわゆる巷で流行りのPHR事業者というのは、医療機関から診療情報を抜き取る目的においてはSSMIXとの連携によって標準化データを抜き取るというのがスタンダードとなっており、仮にSSMIX2対応の電カルを使用していない場合は、ORCAプロジェクトの一環として提供されている、レセコンとの連携により紹介状作成を行う「MI_CAN」を経由して標準化CDを取得する仕組みになっている。(このシステムを通して、紹介状・診断書の作成だけではなく、医療連携用のデータ作成機能を持ち、電子カルテ等のHIS(Hospital Information System:病院情報システム)をもたない中小規模の医療機関においても地域医療連携に参加できる環境を提供してもらえる)(Medical Information system for Creating A regional medical Network)

ではそもそもなぜ標準化した方が良いのかということに立ち返って考えてみると、以下のようなメリットが考えられる。

一次利用
・診療情報の適切な連携
二次利用
・医療機関のアウトカム(医療の質)の評価
・臨床目気学研究のためのデータ集積
・保険教育、健康推進事業におけるデータ提供

では、どこまでその標準化が進んだのか。当たり前だが、昔は全て紙で患者情報を取得していたわけだが、ネット技術の進歩に伴い(PHRの前段階と言える)EMR(electronic medical record)、EHR(Electronic health record)という形でコンセプトのみが一人歩きをする形で、実際のところはそのコンセプト通りにはことは進んでいない。

EMRというのは、紙での情報保存から病院など医療機関にて電子データとして情報を保存することをコンセプトとしていたが、当然ながらクラウドという言葉自体がなかった当初は「医療情報を他クリニックとシェアする」という脳みそは存在せず、当時はあくまで「ここのクリニックでの電子的保存」を目的としていた。(それでも紙で残すよりは大きな進歩であるが)

その次に生まれたのがEHRという概念で、簡単に言えばEMRで貯めた情報を医療機関間で連携、そうすることによって患者一人一人の既往を点ではなく線で認識できる、というコンセプトが生まれた。最終的に今もてはやされているPHRというのが、「患者個人が管理することで健康に対するモチベーションを」というのがこれまでの文脈である。

重要なのは、その時期その時期の技術イノベーションによってコンセプトは次のステップに進化していくものの、業界自体を主導するコミュニティにお年寄りしかいない医療業界では当然その動きは亀よりも遅いわけだ。(実質的には15年経過した2022年現在においても、EMRのレベルで大半の医療機関は止まってしまっている、もちろんある程度紹介システムによる連携は進むかもしれないが、依然としてクリニックからの患者紹介というのは、医師同士で中の良い関係性を前提することが優先されていたり、など)

ちなみに電カルの市場規模は3000億円といわれており、今後のPHR事業というのも同等に3200億円ほどと推定されている。


参考資料
http://helics.umin.ac.jp/files/event_20201118/2020tutrial_3.pdf
https://bio.nikkeibp.co.jp/atcl/report/16/011900001/18/09/07/00201/
https://www.seagaia.org/sg2004/manuscript/murakami.html#:~:text=HL7%20CDA(Clinical%20Document%20Architecture)%E3%81%A8%E3%81%AF%E3%80%81%E3%81%84%E3%82%8F%E3%82%86%E3%82%8B%E9%9B%BB%E5%AD%90,%E5%AE%9A%E3%82%81%E3%81%9F%E6%A8%99%E6%BA%96%E3%81%A7%E3%81%82%E3%82%8B%E3%80%82




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?