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「パリピ孔明」の個人的好きポイント

現在アニメ作品の「パリピ孔明」を見ています。私は基本的に(メディアとしての特性から)アニメは見ない人種で(原作漫画を気に入っていてもアニメは見ないというタイプ)、1シーズン見たアニメとしてはニンジャスレイヤー、ポプテピピック以来なので久しぶりです。

シリアスとギャグのハイブリッド

話は基本的に単純な構造で、現代に転生した諸葛亮(主人公A)がスター歌手を目指す英子(主人公B)のマネジメント/プロデュースをする、というものです。作中では英子がトップ歌手を目指すという話が「シリアス要素」として軸になっていますが、「諸葛亮が現代の渋谷で三国時代の策略を引きつつ音楽プロデューサーをやる」という設定自体がギャグなので、結果的にギャグとシリアスのハイブリッドになっています。

作中主観ではシリアス、メタ的な枠組みがギャグという作品性は、ニンジャスレイヤーに近く、ギャグアニメに多いテンポの良さも備え(1~3話は)正味20分程度でエピソードが完結しており、youtube動画並みの速さで口に合う作風です。

私が前に見ていたポプテピピックは、私がもともとAC部のファンだったから見ていたというのもあるのですが、あのアニメは原作の純ギャグにシリアスなアートを混ぜることでギャグとシリアスの両立を達成しており、自分の口に合う作品というのは概ねそういう要素があるのでしょう。

またそれ以外にも、主人公Aの孔明はスパっとした解決策を提供する「ゴルゴ13」のようなプロ助っ人ものの主人公のようにふるまい、主人公Bの英子側は成長物語・サクセスストーリーの型になっており、その点でもハイブリッドな作りで一粒で二度おいしい密度の高い作品と言えます。

アニメ化で成功している作品

原作は音楽漫画ですが、漫画というメディアの宿命として演奏シーンで作中の観客が感じているであろう感動を表現することがどうしても難しく、雰囲気で何とかするしかないという問題がありますが(上條淳士「TO-Y」に端を発するセリフなし表現が多いか)、この作品はAvexがアニメ化して作中の音楽を具体化したことで、ぐっと説得力が出ています。例えば第3話のスクリームで始まる歌唱のところは「ああ、これなら客が集まるだろう」というのが自然と納得できます。

また、アニメ化に際してキャラクターの見た目が良くなっているのもポイントでしょう。実は原作の漫画では(ギャグ表現含め)英子の作画が安定しておらず、少なくとも立ち絵だけで他作品から差別化できるほどの絵(近年ならメイドインアビスのナナチが分かりやすい例)というわけではありません。これが、アニメでは原画担当の腕によって作画が高位安定するようになり、どのシーンを見てもかわいいし、ダンスシーンの動きの演出は原作のサービスカットの裸よりよほどエロチックで、こちらもアニメ化したことで質が向上しているように思います。

主人公Bの英子は歌がついたことと作画の安定の結果存在感を大幅に増しており、メディアの違いの恩恵を強く受けているように見えます。

モダンなヒロイン像

ヒロインの英子は、概ね「屈託がなく、表情豊かで、努力を惜しまない」という性格に設定されています。嫌いになる要素がないタイプのヒロイン像で、ニンジャスレイヤーAoMのコトブキとも共通しており、モダンなタイプと言えると思います。

その昔の……特にジャンプ黄金期あたりまでのヒロインは「囚われの姫」が務まるタイプが結構多かった(「北斗の拳」のユリアやリン、「聖闘士星矢」の城戸沙織、「幽遊白書」の雪村螢子あたり)のですが、このタイプは出ずっぱりにすると展開をスローダウンさせ、下手をすると足を引っ張ってヘイトを集めやすく、作中内でもキャラクター類型としても次第にフェードアウトした印象です。

代わりに主体性が強く話を回せるタイプのヒロインが(以前にもまして)増えていくわけですが、群像劇では"戦力"としてカウントできるヒロインが多い一方、上述の「屈託がなく、表情豊かで、努力を惜しまない」タイプは、主人公にフォーカスを当てつつ、完全なサイドキック(例えば「コブラ」のレディ)よりは主体性をもって動くという匙加減となっており、最近よく見るようになっている思います。

作中歌の品質

この作品はavexが作っているだけあって、音へのこだわりはかなり強いと感じます。例えばステージからちょっと離れたところや部屋の外への音漏れの表現などは、「確かにそう聞こえる」というフィルターの作り込みに感心しました。

主人公Bの英子は普段の声と歌唱部分で声優が分かれていますが、歌唱部分の96猫さんはこの作品ではセリフ声優に声質を寄せて歌っており、切り替わりの違和感があまりありません。ご本人はゆるキャラのキャラソングから、高めのストレート低めのストレートハスキー気味までどれも声色、印象をかなり変えており、昔のモノマネ歌手に似た「声色合わせ芸」がかなりうまいようで、確かに、これは音楽アニメでキャラクターや声優に合わせて声色を寄せるなら最適任の人選と思います。ストレートで高めの声質なら主人公に合いますし、このハスキーさを強調した歌いまわしなら2話のMIA西表の歌を当てたとしても成立しそうに思います。

また(これを書いている時点で最新話の)6話のラップは、特にストーリー上のセリフとして視聴者に理解してほしい部分では、文章構造を単純にし(袋小路文のようなものが少ない)、単語の選択も漢語や英語を意図的に減らして聞きやすく伝わりやすい作りになっています(原作者も漫画の段階で歌うことを前提として書いているように思えます)。また、ラップ部分だけでも歌手によるノリの違いや感情の変化も伝わる作りで、音部分に本気で取り組んでいることが伺え、音楽業界を描いた作品として、引っかかるところがなく好感が持てました。


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