撮り鉄の振り見て我が振り直せ

ツイッターのほうで江ノ島電鉄でのトラブルに絡んで撮り鉄にちょっと言及してしまった。そこで、フォローアップとして「撮り鉄以外にも同じように迷惑をかけている人はいる」「人の振り見て我が振り直せ」という趣旨の記事を少し書こうと思う。

そもそも写真趣味の治安が悪い

そもそも写真趣味は難儀なもので、良構図を得るためなら他人の迷惑など顧みないという人が出現しがちである。例えば鉄道でない風景写真でも、撮影場所の占有、禁止区域への侵入、植物や動物に加害、公道への駐車標識の損壊、暴言をはき恫喝するなど、撮り鉄で聞いたのと同じようなトラブルが報告されている。

この手の問題で象徴的な例は北海道の「哲学の木」で、良構図を得ようとする撮影者の農地への不法侵入が後を絶たず踏み荒らしや農産物病原体侵入のリスクが問題となっていた上、木が老いて倒れる危険も出てきたため、木を切り倒す決断が下されることになった。

撮り鉄はオタク男、風景写真のトラブルはおじさんが思い浮かびがちだが、写真のマナー違反・違法行為はそういった偏見がある人に限らず、instagramでキラキラを競う女子の間でも発生する。飲食店でTPOをわきまえず写真を撮る程度のマナー違反なら軽いほうで、例えば北海道では「いかにも北海道らしいインスタ映えする風景」としてサイレージ用の牧草ロールに乗る写真が流行しだすと、農地に侵入して農業用に使う予定の牧草ロールに乗る行為が問題となった。このため、最近では牧草ロール写真をアップするときには観光用にしつらえた物であることを添え書きするケースが増えている(下記instagramのコメントはそうである)。

このように、写真趣味は老若男女、陰キャか陽キャかを問わずマナー違反を誘発させやすく、特に同好の士でコミュニティが成立し競争が始まるとその傾向が激しくなる。

そもそもナマモノコレクターは治安が悪い

撮り鉄の中の一定数は、レアものを手に入れたいコレクター趣味としての側面を持つ。彼らは今回の江ノ電のケースでは、
・江ノ電最古の車両(レア)
・定期点検後の試運転(レア)
・路面電車区間(アンコモン)
が重複しており、今風に言えばSSRくらいのレア度で、このために撮り鉄が殺到していた。

コレクター趣味というのも、しばしば治安が悪くなる場合があり、レアものを手に入れるためなら破壊行為や違法行為を行う人が一定数いる。コレクターの中でも、人工物を収集の対象としている場合、例えば切手やTCGは作れるのでまだ制御可能である。

一方で、動植物など自然物(ナマモノ)のコレクターは、養殖が難しい場合でも手を出し、世紀をまたいで昔からトラブルの種になってきた。彼らは希少動物・植物を八方手を尽くして集め、棲息地で乱獲が問題になりワシントン条約や種の保存法により規制がなされるようになっても、闇ルートでの密売が後を絶たない。

動物の場合、標本化して保存しやすい希少昆虫の密売が多いが、生体として取引されがちな魚類や爬虫類の場合も、ペットショップによる安易な輸入行為や、それらが管理しきれなくなった際に放流して外来種の問題を招くことがある。植物では繁殖速度の遅い過酷環境に棲むものが問題になりやすく、日本では高山植物国際的にはサボテンなど砂漠の多肉植物で乱獲が起きやすい。鉱物でも、極論すれば宝石は水晶やルビーは化学的には〈本物〉の人造品が出回り工業利用さえされているにも関わらず、大規模な自然破壊や戦争を呼び起こしてまで天然ものに価値を与え続けている。

人工物であっても、ブームが急に盛り上がるとコレクターはトラブルを起こしがちである。近年では御朱印ブームで神社や寺社の担当者を恫喝するような問題を起こすコレクターが出現して問題になった。御朱印自体はもともとスタンプラリー的な性質を持ちコレクションをある程度前提としているが、それでも急にブームがくれば対応できないこともあり、その時に治安の悪さが表に出てしまうことがある。

鉄道に関しては、それ自体は人工物ではあるが、試運転や特別列車は撮り鉄のコレクターのために供給しているわけではないので、レアリティは天然ものに似た性質を持つ。むしろ撮影会等ではない「天然もの」だからこそレア度が高くコレクション趣味をそそり、「レアものゲット」の機会を逃すまいとする焦燥感を募らせ、横暴な行為への箍を外させる関係となっている。

公共物を使う趣味はトラブルの元

撮り鉄が問題化しやすい理由の一つとして、公共物を趣味の対象として私物化しようとしてトラブルが起きやすい、ということが言われることがある。

公共の道路を使った趣味は一般にこれと同じ問題を抱える。典型的にはスポーツカーオーナーが公道でも飛ばしたくなるのがそれで、こちらは人命がかかっており撮り鉄とは比較にならない大迷惑なので、昔から法律で規制されており、警察も専用の機械まで使って監視している。スポーツカーオーナーは「自浄作用」を求めるなら自分たちも積極的にドラレコ晒し上げで速度違反等を警察にチクっていくべきだろう。

自動車でなくとも、自転車乗りは止まるのを面倒くさがって信号無視するなど交通違反等のトラブルを抱えやすく、特に趣味のロードバイクはそれが悪目立ちする傾向にある(もっとも最近は趣味のそれよりUber Eatsの配送などのほうが問題になっているケースも多い)。

オフロードバイク(二輪自動車)は都市では目立たないが山間部ではロードバイク(自転車)以上の存在感がある。この中でも大きいのは騒音や土を掘る問題で、少数の来訪の場合には通常の観光客同様の扱いを受けることが多いが、数が増えてくると未舗装道を削るため公共物の破壊者とみなされ、しばしば林道などから出入り禁止の措置がなされる。

公道の占有(違法なものを含む)などは他の写真趣味やら播戸趣味の公道無許可演奏等でも起きることだが、撮り鉄の場合は対象が公共交通機関であるだけにその頻度が圧倒的に高く、駅など人が集まるところにたむろしていることがしばしばあるので、公共の場でのトラブルを起こしやすい性質持っているとは言えるだろう。

狭いオタクコミュニティ内の競争で箍が外れる

撮り鉄は共通の雑誌を買い、同じ電車を狙って集合することも多いため、独特のコミュニティを形成している。こういった狭いコミュニティは、規範意識を世間から乖離させ、コミュニティ内の競争でコミュニティの論理を優先させ社会一般の規範から逸脱させる誘因となる。特に写真趣味はinstagramやtiktokなどでコミュニティ形成・承認欲求中毒・競争の激化が以前より圧倒的に速く進むようになったので、デジタルネイティブ世代ではこの問題は以前より加速している。

撮り鉄のそれを端的に表すのが、もはや伝説となった2015年の事件における「キセルを通報するなんて撮り鉄界のタブーを犯した」という供述だろう。

「撮り鉄が暴れた動画」とされるものは、よく見るとその多くが撮り鉄自身が撮影したものであると分かる。それがなぜ表に出てくるかというと、撮り鉄内のコミュニティで「こんな撮影妨害に遭った、被害者なので被害動画を広めてくれ」として世に出し、実際に広まって撮り鉄コミュニティ外の人に到達した時に「撮り鉄の横暴動画」に解釈が変わって炎上する、というパターンが多い。コミュニティ内の論理ではOKだから自分の加害動画を白昼発表してしまい、ゆえに一般人の目に触れやすく叩かれやすいのである。

この手のコミュニティ内での論理が周囲からの目を隠す問題は、例えばオタク界隈にもある。声優や地下アイドルのライブで熱心なオタクが「オタ芸」なるものをやっている場合があるが、オタクの中でもオタ芸オタクが孤立したコミュニティを形成し、他の観客を無視して自分(たち)のオタ芸のアピールを優先し、コミュニティ内でより目立とうとして傍若無人な振る舞いをして顰蹙を買うことがしばしばあり、そのために主催者側がオタ芸禁止を謳うケースが増えた。

この手のコミュニティ内のルールを優先させて外部と軋轢を生む趣味では、おそらくバス釣りが一番ひどい部類に入り、外来生物法や各地の条例で規制され譲歩部分として特定の湖沼でのバス釣りを認めているにもかかわらず、「バス リリース」で検索すれば法律の抜け道を探してあらゆる河川にバスをリリースしようとしている痕跡が見られる。キャッチアンドリリースも「同じことを猫でやったら動物虐待として炎上しますよね?バスだって同じです。で、それが何か?俺たちは魚を虐待して楽しんでるんだよ。法律で規制されてないし」と悪びれる有様で、もはや狂信の部類に入っているが、彼らもコミュニティ内の論理にとらわれており、公然と発表したら炎上するだろう言説を自信満々に発表しているケースが多々見られる。

まとめ

さて、私としてはこの記事を「撮り鉄以外にも同じように迷惑をかけている人はいる」「人の振り見て我が振り直せ」という趣旨で書き始めたし、今も本質的にそれは変わっていない。公道での高速走行、希少動植物のコレクター(飼い主)、バス釣りなど、あまりにもひど過ぎるので既に法律で規制されてしまっている趣味というのもあるし、その趣味を持つ人の中に少なからず「法律で規制された自分たちこそが迫害された被害者」という感情を持っているものもいる(特にバス釣りはコミュニティの多数派がその類になる)。

ただ同時に撮り鉄が、それぞれの迷惑要素の程度は中程度に留まるものの、迷惑要素の種類が多い「迷惑要素の数え役満」的な性質を持っていることも分かってしまった。個人的には、身内が撮り鉄を趣味として始めたならば、渇望を満たせず葛藤するであろうことを先に伝えて止めたいとさえ思った次第である。



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