博士後期課程1年生を終えようとして

私の指導教官の一人は,三年という博士後期課程の標準的修了期間の間に,博士論文と投稿論文とを両方とも書き上げることに対して,一世代前くらいまでの慣習と比べ,大変な事態になってしまっており,できれば博士後期課程の三年間は,いわゆる古典とされるような作品とじっくり向き合う期間にしてほしいのだがね,と言いつつも,さりとて今現在の置かれた状況を私一人で変えることはできないから,なんとかまずは投稿論文の執筆をおこなってほしい,という趣旨の発言を私にしてきた。その人は,投稿論文を,それも最初の投稿論文を書き上げて,査読付きで掲載されるようなものを目指すには,2年ないし3年はかかるものだ,とも言っていた。

私のもう一人の指導教官並びに, その指導教官と近しい関係(専門は全然違うがとある先生の元で学んだということでは近しい関係)にある先生はともに,博士論文は「仮免許」のようなものであって,そしてその博士論文には査読付き論文を,できたら違う学術雑誌に一本ずつ,合計3本くらい含まれていれば,少なくとも形式的には博士論文を通さざるを得なくなるだろう,と言っていた。

さてと,この三者の意見を総合すると私は,どうやら少なくとも3重くらいには影分身を身につけ,その各々の分身がそれぞれ共に働くことをしなければ,博士論文を3年で書き上げることはほとんど不可能なのではないか,と思わざるを得ないのである。なんということであろうか,と思うと同時に,この影分身の術を身につけるよりかは,この現実的状況を受け入れた上で,彷徨いつつ動いていくことをするほかないだろう。肝心なのは,前進することではなく後退することでもない。彷徨いつつ動くことである。そしてその動きを,前進しているふうに見せることである。

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