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灯を消せ。

真っ暗闇の海洋で遭難しているとき、
むこうのほうから、ふと、
陸の明かりが見えてきたときの気持ちって、
どんなだろうか???

みたいなことを考えていたらね、
河合隼雄さんのあることばを思い出しまして。
それは、
河合隼雄さんの著書『こころの処方箋』より、
【灯を消す方がよく見えることがある】
(新潮文庫、114頁〜)
ということばなのですが。

たとえば、
漁船で海釣りに出かけ、
釣りに夢中になっているうち、
みるみる夕闇がせまりあたりは暗くなってしまった。
あわてて帰りがけるも、潮の流れが変わったのか、
混乱してしまって、方向がわからず。
月も出てないから、あたりも見えず。
たいまつで灯をつけるも見当つかず。

そんなとき、船員のひとりの知恵者が
「灯を消せ。」と言う。
不思議に思いつつも気迫におされて灯を消すと、
あたりは真っ暗闇。

でも、この暗闇に、
目がだんだん慣れてくると、
遠くのほうから、
ぼうっと浜の町の明かりが見えてきた。
そして、じぶんたちの
帰るべき方向がわかった。

というお話しなのだけれども。
遠くの明かりを見るために、
「じぶんの灯を消す」というのは、
なるほどぉ、そういうこともあるやもしれない、
と感じられる。

河合隼雄さんのおっしゃる
「じぶんの灯を消す」とは、
河合先生も著書で書いているのですが、
示唆的であり、また、
なにかの比喩のようにも思える。

たとえば、暗闇のなかで、
じぶん自身の進むべき方向が
わからなくなってしまったようなとき。
闇雲に動こうとするのではなくて、
「じぶんの灯を消す」かのごとく、
闇のしずけさの中に身を置いてみたり、
たいまつのような「道具」や「知識」を
いったん横に置いてみる。

そうしているうちに、
闇に目がだんだん慣れてきたら、
遠くのほうから、うすぼんやりと
なにかが見えてくる。
かもしれない。

闇のさなかで、
「灯」を手放すのは怖いかもしれないけど。
そういうことも、
だいじなのかもしれないなあ。

そうしながら、
うすぼんやり見えてきた
救いでもあるかのような明かりの方向へと、
漕ぎ出したい。

令和2年10月28日

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