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難渋するリーダー移行を成功させる方法

リーダーの移行、それは組織全体の場合は事業承継であり、BU単位ではマネジャーやチームリーダー等の昇格の都度発生するものです。雑駁に言えば、牽引ユニットのスケールに違いはあるものの、リーダーの移行は簡単ではないという点では同じでしょう。

例えば、次世代のリーダーは新時代を勝ち残るために適切なチームを編成できるのか、持続的な成長を実現する戦略を実行できるのか、そして次の次のリーダーを育成できるのか等、不安は尽きませんし、新リーダーを指名したシニアリーダーも、期待と不安が入り混じった気持ちに苛まれます。

どんな組織も必ず直面するリーダーの移行ですが、失敗すれば組織として大きなダメージを負うリスクが高いにもかかわらず、移行過程で実行される組織的な支援はシニアリーダーのOJTがほとんどで、あとは本人が「こういうことが必要だろうな」と考えた取り組みというケースが大半です。

複数の候補者から人選するわけではない中小企業ではとくにこの傾向が強く、過去の知見が通用しない経営環境において勝ち残ることを求められるリーダーへの移行が果たして本当に上手くいくのか、甚だ心許ないというのが実情ではないでしょうか。

また、リーダーシップの移行期における生産性は一時的に低下するものであり、単に新たなリーダーを選任したら移行完了というわけではなく、本当の意味で移行が完了したと言えるのは、新リーダーとマネジメントチームが新たな目標の達成にむけて最大限の生産性を発揮できるようになった時です。

この移行期をどれだけ短縮することができるか、つまり新リーダーができる限り早く最大の生産性に到達できるか、そしてその生産性をどこまで高められるかが、企業価値の最大化につながると考えれば、感覚頼みや思いつきによる移行をデザインすることの怖さをご理解いただけることと存じます。

本稿では、新たなリーダーへの移行を成功させるためには何をすればよいのかを考察します。まずは、リーダーの移行が重要である理由から紐解いてまいります。


リーダーの移行が重要である理由

ハイリスク・ハイリターン

ビジネスにおいて持続的な成功を実現するためには、優れた新リーダーを選出することが不可欠です。ある調査によると、優れたリーダーを選んだ組織では、3年間の業績目標を達成できているのが90%、そうでない組織と比べて離職率は13%低く、自発的に努力する意欲は2%高く、売上や利益は業界平均より5%高いことが判明しています。

反対に、新リーダーが思うような成果を出せていない組織では、リーダー自身のエンゲージメントが20%下がるだけでなく、部下のパフォーマンスも15%低下し、リーダーの解任や辞任等が発生することもあります。

リーダーがいなくなれば当然次のリーダーを決めなければなりませんが、そのコストもかかります。この時点で社内昇格者を指名することは難しく、社外招聘となると、採用広告や経営プロフェッショナルの紹介手数料、採用時のボーナス、転居費用等も必要になり、結果的に新リーダーの年収の2倍以上の費用が嵩むことになるのです。

最大の損失は、新リーダーが組織を前進させる時間を数か月から1年半程度も失ってしまうことでしょう。相対的に後退している間にゲームやルールが変わってしまったら、失地回復は困難を極めます。

また、新リーダー自身の心情も期待と不安で不安定になっています。高次のステージで手腕を発揮できる可能性を掴んだことや、次世代の幹部候補の指導・育成ができること、プライドが満たされ高額報酬を手にできることに、誰もが興奮を覚えるのは理解できることです。

その反面、過去に例のない困難な経営環境での舵取りを任されたことで、周囲からの大きな期待に押しつぶされそうになり、求められる水準に照らして自身の力量不足を痛感して自信を失い、不安に苛まれるストレスフルな毎日をおくらなければならないことも事実です。

こうした期待と不安は新リーダーだけなく、選んだ側にも同じことが言えます。成果創出に苦戦しているリーダーを見ると、果たしてその人を選んで正しかったのか、いやあの人なら期待に応えられるはずだ、しかし本当に成功できるかどうかは未知数だ、と悩むのです。

リーダーの下にいる人達にとっても、「新たなリーダーについていって本当に大丈夫なのか、我が身は保障されるのだろうか」という心境になることもあるでしょう。

新リーダー自身は勿論、新リーダーを選んだ人や直下の人達も、リーダーの移行はハイリスク・ハイリターンであることを肝に銘じておきましょう。

成功確率50%

失敗の大きな要因は、カルチャや人材、社内政治という可視化して捉えることが難しい問題です。7割弱の新リーダーはこの問題で苦労しており、社外招聘した場合は8割が、社内昇格者でも7割がカルチャ変革の難しさを痛感していることが明らかになっています。

前々回のブログ(カルチャを競争優位の源泉にする)でも記しましたが、カルチャは差別化のリーサルウェポンであるだけに、一旦定着したカルチャの変革は非常に難しいことを示すものと言えます。

脆弱な組織的支援

猛烈なスピードで激変する経営環境下での経営の舵取りが難しいことはご存じの通りですが、それに伴ってリーダーの移行も増えています。米国におけるCEO退職率は、2010年は11.6%でしたが、2015年には16.6%となっており、実に43%増加しています。

また、新任CEOは就任後2年以内に経営陣の入れ替えを行うため、7割弱のリーダーが過去1年間にくらべてより多くの移行を発生させていると考えられます。

このようにリーダーの移行機会が大きく増えているのですが、組織的な移行支援策は充実しているのかという観点で見ると、準備がほとんどできていない組織が8割強を占めているのが現実です。

例えば、自社の事業継続の取り組みをイメージしていただければご理解いただきやすいかと存じますが、体系立てた取り組みを粛々と実行していると自信をもって断言できるでしょうか。

ほとんどの組織では、リーダーの移行に対する具体的な支援策が用意されておらず、新リーダー自身が自分なりの問題認識に基づいてリーダーシップ開発を手探りで行う様子を追認するだけのように考えます。

勿論、シニアリーダーによるメンタリング、就任時研修プログラム、エグゼクティブ・コーチング等を実施しているケースもありますが、それを受講した新リーダーは、必ずしも有効性を認めているわけではないという調査結果も出ています。

具体的には、メンタリングが役立ったと回答したのは、社外招聘者では半数弱いたものの、社内昇格者では3割を切るほどでしかなく、就任時研修では前者が2割弱、後者は1割強、エグゼクティブ・コーチング等の実施率は3割強に留まっているのです。

体系的かつ効果的な移行支援策とするためには、ビジネスシーンから乖離したOff JTではなく、売上や利益創出に結実するOJT、もっと言えば新リーダーが牽引する組織が掲げる戦略目標を達成させるためのビジネス推進支援策を拡充することが急務です。

つまり、新リーダーの移行を成功させるためには、リーダーシップ開発と当該ビジネス領域における価値創造力の開発を同時に行うことが必要であり、そのためには人事部門だけでなく、ビジネスにも精通したHRBPの支援が不可欠になるのです。

ただ、人事制度の運用に忙殺されている人事部門やHRBPにその役割を更に担わせることは非現実的ですから、先にHRDX(Human Resource Department Transformation、人事部門改革)を行い、役割の明確化と必要な権限を付与した後、改めてこの取り組みをデザインすることが必要になるでしょう。

リーダー移行における3つのKFS

現状分析

現状分析は、「ビジネス」「カルチャ」「チーム」「自分自身」「ステークホルダー」の5つの側面について行いますが、その際「準備」と「実行」の2つの段階に分けて確認します。

  1. ビジネス(当該リーダーの管掌ビジネス)
    準備段階では、現在のトレンドやビジネスチャンスにおいて、現在のパフォーマンスとケイパビリティをどの程度発揮できているかを確認、実行段階では、戦略目標の達成に向けたチームと組織全体の連携状況と稼働状況が適切かを確認します。

  2. カルチャ
    準備段階で現状と将来のパフォーマンスを引き出すために必要な変化に対して理解します。実行段階では、変化の実現にむけて組織に影響を与える有効な打ち手を講じているかを検証します。

  3. チーム
    準備段階では、メンバーのスキル、能力、意思、適性、チーム編成が適切であるかを確認、実行段階ではハイパフォーマー集団になるために体系立てた能力開発やコラボレーション体制を整えているかを確認します。

  4. リーダー自身
    準備段階では在任中に成し遂げたいことを明確にして必要な検討を行っているかを確認、実行段階ではその検討において自分自身しか果たすことができない役割のためにリソースをどれだけ投入しているかを検証します。

  5. ステークホルダー
    準備段階では、主要ステークホルダーからリーダーに寄せられる期待を適切に理解しているかを確認、実行段階ではコミュニケーションの質と量を最適化し、良好な関係性を構築しているかを確認します。

また、新リーダーは、就任時にマネジメントチームの半数を入れ替え、「自分のチーム」とすることが昨今の定説になっています。

チームメンバーの入れ替えは、業績が振るわない組織では7割強、高業績組織でも65%強で行われており、新リーダーがリーダーシップを発揮するための手立てとして使われています。

ただ、その効果は、業績不振の組織でTSRが向上したケースがある一方、高業績組織では価値を毀損したケースもある等、どのような組織でも有効な手立てとは言い切れない結果となっています。

経営の舵取りを担うチームとして最適なメンバーで構成することは当然ですが、組織が置かれた状況によって最適な方法は異なることに留意すべきでしょう。

「やること」と「やめること」の明確化

新リーダーの就任に伴って、ほとんどの場合、新方針を打ち出しますが、それと同時に「やめること」を明確にすることは稀です。リソースは有限であり、新方針に転換するならどこかからリソースを捻出しなければなりませんが、「旧方針に投入していたリソースを撤廃して新方針に振り替えよ」と明言されない限り、今までの事業活動も並行して動き続けてしまいます。

素直で従順な従業員が多い日本企業では、それまでの事業活動を新たな方針にフィットさせようと努力したり、サンクコストを切り捨てる決断ができず、それまで推進してきた業務で成果を出すことで新しい目標を達成しようと頑張ってしまうのです。

結果的に、新旧方針を両立させようと奮闘してどっちつかずになってしまい、新リーダーが期待するインパクトを創出できないまま時間が経過し、リーダーのコミットメントも薄れてしまいます。

成功したリーダーは「やること」と「やめること」を同時に明確に伝えることが、そうでないリーダーより1.8倍多いことがわかっています。

準備段階では「望ましい変化とは何か」を定義し、現状業務を分析して「やめること」「先送りにすること」「スピードダウンすること」に分類、実行段階では「やること」と「やめること」の明確化と、リソース確保のために「やめることをどのようにやめるか」を具体化することが重要です。

インパクト重視

リーダーの移行で最も重要なことは、新リーダーが実現するインパクトの大きさにフォーカスすることです。よく「新任リーダーが最初の100日にすべきこと」という類の書籍を見ますが、新リーダーが就任してなんらかの成果をあげるために必要な時間は、状況によって異なるので、過度に日数に拘る必要はありません。

ある調査によると、就任後に生産性が完全に向上するまでに要する日数は90日以上(社外招聘者92%、社内昇格者72%)、次いで150日以上(62%、25%)必要であると、新リーダー自身が考えています。

また、周囲がCEOに与える猶予期間(月数)に関しては、戦略的ビジョンの策定:8、社員からの支援獲得:9、適切なチーム編成:14、アナリストからの信頼獲得:17、株価向上:19、業績回復:21、ビジネス再構築:22など、思いの外長期にわたり見守る姿勢をとっています。

こうした周囲の見方に甘えて時間を空費することは論外ですが、これらの結果を見る限り、移行を成功させるなら拙速さよりインパクトを重視すべきであると考えます。

実際に、移行に苦労したリーダーの多くは、自分自身の長所と短所の把握、効果的なリーダーシップの発揮の仕方、マネジメントチームの運営方針の策定、チーム作り等について、もっと時間をかけて丁寧に行いたかったと反省しているのです。

先述した「最初の100日」云々も、ニューディール政策を100日の議会日程の中で次々成立させたことをドラマティックに仕立て上げた物語に端を発するものであり、それを現代の企業経営におけるリーダーのあり方に当てはめることには無理があると考えておきましょう。

リーダー移行成功のための5ステップ

1.PMVVの共創

新リーダーに就任したら、PMVV(パーパス、ミッション、ビジョン、バリュー)をはじめとする目指す目標や実現したい志についてまとめることから始めます。予めご自身の頭の中に明快なビジョンを描ききっていることがあったとしても、具現化するにあたってはチームとの共創が必須です。

共創プロセスにおいて、自らの視座、視野、志をはじめ、過去の業績、現在の競争環境や業界動向、カルチャ、組織体制等についてチームメンバーと語らい、議論を重ね、PMVV達成に関するチーム全体のオーナーシップとコミットメントを強化しましょう。

2.現状分析と「今やること」の早急な実行

現状分析では、目標、能力、マインドセットに関する現状分析を行い、目指すべき姿と現状とのギャップを明確化します。また、分析結果に基づいて、早急に手を打つべきこと、例えば効果が出るまでに時間がかかる組織体制、カルチャ、人材の問題に対しては、すぐ実行します。

また、従業員等の主要ステークホルダーに対して、推進したい新方針について自ら出向いて説明する機会を設け、理解と支援を要請します。同時に、新方針の命運を左右する重点項目に関しては、どのように変化させていくのか、チームと連携してマイルストーンを明確化し、共有しておきましょう。

3.強力なチェンジストーリーのデザイン

あるべき姿への変化を実現するためのチェンジストーリーとマネジメント体制をデザインします。「やること」と「やめること」を明確に打ち出し、内容についてシニアリーダーの合意を得るとともに、チェンジマネジメントを司るチームのバックアップを取り付けましょう。

また、何を変え、何を変えないか(変えるべきではないか)を個別具体的にしたチェンジストーリーを作成、各プログラムや諸施策へのコミットメントを強化します。チェンジマネジメントの推進ルール、例えば、指標、進捗管理、調整等のミーティング開催頻度や運営方針等について取り決めます。

4.レビューメカニズムの組み込み

実行段階では、トップから現場に至るまで、組織の隅々にチェンジリーダーを特定し、新たな取り組みを強力に推進するよう働きかけます。部門やチームを跨ぐ問題を解決するためには、より広範なシニアリーダーにも調整等で介在してもらう必要が出てきますので、支援を要請しておきましょう。

また、施策が計画通りに進展しているか常に測定し、レビューと改善につなげます。変革を定着させるため、新方針をビジネスと人材管理の2つのプロセスに組み込み、個人レベルまで目標と責任を明確にします。ASAPで成功事例を生み出すことが、変革を加速するうえで非常に重要な意味を持ちます。

5.新運営モデルの構築

仕上げ段階では新リーダーの自省と今後の運営モデルを構築します。変革を振り返り、プライオリティは正しかったか、変革に没入する時間と、沈思黙考や自己投資等に投入する時間を切り分けることの重要性、責任を持たせる一方で必要な支援を与えてチャレンジさせたか、組織と人材に関する変革の成果を粘り強く追及し続けているか等を検証し、運営モデルの構築にフィードバックするのです。

また、新リーダー自身やマネジメントチームが、本当に変革のロールモデルになれているかについて、シニアリーダーや主要ステークホルダーから正式にフィードバックを受ける仕組みも構築しましょう。

Appendix

Diagnosis

PMVV、ストラテジー&マネジメント、マーケティング&セールス、ピープル・カルチャ・組織、プロフェッショナルスキル等の現状を診断するサービスです。あるべき姿とのギャップを明確化し、その解消を目指すために何をすべきかの指針も提供します。

Change Management

リーダーの移行に関するあらゆるプロセスを適切にマネジメントし、企業価値の最大化を最速で実現します。新リーダーが厳守すべき7つのルール、チェンジマネジメントの4つのKFS、移行実行時の3つのポイント等、移行成功のために不可欠な要素を確実に押さえながら推進します。

Executive Coaching

新リーダーのリーダーシップ開発支援体制が脆弱な場合、エグゼクティブ・コーチングのご活用を推奨します。また、ビジネススキルの引き上げに直結するストラテジーとマネジメントにフォーカスしたスキルアップトレーニング(ストラテジー&マネジメントプロフェッショナル)と併用されるケースも増えていますので、ご興味のある方はリンク先をご参照ください。

最期までお目通しいただきまして、ありがとうございました。ご質問、疑問点、コメントなどがございましたら、お気軽にお寄せいただければ幸いに存じます。皆様にとってなんらかの手蔓となれば嬉しいです。


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