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フランス語コンクールを終えて【2023】

コロナ禍を経て、実に四年ぶりの対面開催となったフランス語スピーチコンクール。
四年前、2019年の様子は別記事にまとめてあります。

今回も上級、中級合わせて15名の決勝出場者が揃いましたが、前回と大きく異なったのはその配分です。
2019年開催時の割合は上級9名:中級6名、今年2023年は上級7名:中級8名で、僕の記憶する限り、中級出場者数が上級を上回ったのは今回が初めてではないかと思います。

なぜか?

2019年の記事にも書いた通り、実際には上級レベルの実力がありながら中級に応募する、という傾向がさらに顕著になっているというのがまず考えられます。
強者揃いの上級に挑戦するより、あえてレベルを落としてその中で入賞を狙う、というのはある意味妥当な判断でしょう。

ただ、今年に限って言えばそれだけとも言えなさそうです。

テーマを見てみましょう。

上級:Ce que la vie confinée nous a appris (コロナ下の生活から私たちが学んだこと)
中級:La plus belle rencontre de ma vie (私の人生の最もすばらしい出会い)

「とりわけ中級において、胸を打つ発表が多く見られた」と審査員の何人かが口にしました。
僕もまったく同感で、中級が上級を上回ったのは人数においてだけでなく、スピーチの内容やクオリティに関しても中級の方が全体的に優れていたと言えます。

それもそのはず。
ただ、それは出場者の問題というより、テーマの問題です。

"Ce que la vie confinée nous a appris" (コロナ下の生活から私たちが学んだこと)、このテーマで魅力的な原稿を書けという方が難しいでしょう。
予想していた通り、上級出場者の多くはコロナを経ていかに私たちの生活が(よくも悪くも)変わったか、どんな変容を迫られたか、どんな逆境があり、またそれによってどんな教訓を得たかという誰もが一度は聞いたことがあるようなことを述べるのに腐心していました。

スピーチでは、高いレベルの発音、会話スキルが求められるだけでなく、なによりも個性、オリジナリティが重視されます。
よって審査員の印象に残ることがなければ、入賞もありえません。

「コロナを経て何を学んだか」についてオリジナリティを交えて語るには、極力みんなが知っていることに言及するのは控え、あくまで個人的な体験、エピソードを入口としつつ、私にしか話せないことを中心に据え、さらにそれを社会的な問題に接続し、今を生きる人間すべてに還元できるようにするという曲芸のようなことをやってのけなければなりません。
(これができていた出場者が一人だけいましたが、質疑応答でのパフォーマンスが光らなかったか、惜しくも航空券つきの賞には届きませんでした)

それができてこその上級、ということは言えるかもしれませんが、それにしてもコロナはあまりに私たちにとっての共通の記憶であり、そこから力づくで脱出しオリジナリティを構築することを要求するというのはいくら上級でも酷ではないか、というのが僕の思うところです。

対する中級のテーマは "La plus belle rencontre de ma vie" (私の人生の最もすばらしい出会い)、こちらは個人的な出来事を話すしかないので、自ずとオリジナリティが浮かび上がり、出場者は気負わず自分を表現することができます。
きっとこの安心感が、多くの出場者をして上級ではなく中級を選ばせたのではないでしょうか。

そして、僕の生徒もその一人でした。
というより、僕が「上級はやめて中級にしましょう」と助言しました。
その甲斐あってか、2019年は惜しくも一次選考落ちに終わりましたが、それ以来の悲願が実る形で今回こそは、中級のファイナリストに選ばれました。

結果は奨励賞。航空券こそ逃しましたが、念願の出場を果たし、壇上で賞まで受け取ったのだから、たいしたものです。Félicitations !
(その生徒さんとはなんと姓が同じで、みんなに「ご家族?」「結婚されてるの?」などと間違われましたが、本当にたまたま同じ志村さんだったというだけです笑)

僕は2014年(九年前。。)にこのコンクールに出場し、航空券つきの賞をいただいてしまっているので、残念ながらもう出場することができません。
だからこうして生徒さんに代わりに出場してもらい、疑似的に緊張感を味わうという方法しかないのです。
楽しかったので、またやりたいと思います。

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