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【アルゼンチン共和国杯予想】スペシャリスト志向から見えるユーティリティの罠

スペシャリストかユーティリティか。人材の価値は時の移ろいとともに変わり、流行の影響も受ける。かつて職人が支えたこの国はスペシャリストの世界だった。それぞれがなにか一つを探求し、極め、愚直で不器用ながら、秀でたなにかを武器に世を渡っていた。だが、縦割りという言葉が批判的に使われるようになり、世界を横断できるフットワークの軽さ、それぞれの世界をつないでいく調整力が評価され、ユーティリティなプレイヤーこそが世界を面として広げられる存在といわれた。「これしかやらない」という頑固さは発展を妨げる。ライターでいえば何でも書けるヤツが稼げた。

しかし、面的な広がりは世界を浅いものへと変容させる。こんなに簡単でいいのか。そんな揺り戻しが一部で起こる。また、スペシャリストなら間違えない専門性の高い基礎部分でもユーティリティは躓くことがある。やっぱり道を究める人には敵わない。スペシャリスト、職人にしか表現できない世界こそ美しい。

そんな対極の揺れはあらゆる世界にある。野球の日本シリーズが面白い。今日は最終戦で、ひとつ結果が出る。ポジションも打順も基本は動かさない岡田阪神と相手とチーム内のコンディションを見極める中嶋オリックスの勝負はスペシャリストとユーティリティの縮図であり、かつて少年時代に観た野球と現代野球が重なってきて、興味深い。

岡田監督はオリックスの打者がランナーなしの何でもない状況にもかかわらず、相手投手のリズムを崩そうとタイムをかけて打席を外すと、ベンチから飛び出さんばかりに声を荒げる。監督自身が身を乗り出すのは、完全にかつての野球監督の姿だ。静かで紳士な現代の監督像とは確実に違う。抗議や威嚇も自分できっちりやる。監督でなければできないことは監督がやる。

対して中嶋監督は選手の守り方が違う。対話を重視し、目配り気配りで最善手を探していく。同じ打順で試合に挑むことはまずない。それでも勝つから、監督としての価値は上がり、マジックという言葉で形容される。だが、根は岡田監督と同じく信念の人だろう。ユーティリティはひとつ間違えると、芯のなさを隠す道具になってしまう。自分の考えなど持たなくても、周囲の助言を聞き入れ、フットワークさえ軽ければ、渡れてしまう。ユーティリティを誤解する人は多く、そんな言葉を利用して、空っぽのまま走り出す人がどれほどいるか。

中嶋監督はそうではない。信念を曲げずに采配を振るうという意味では、岡田監督と同じ。監督としてやらなければならないことを前へ進め、勝つための手を編み出していく。そう、スペシャリストとユーティリティは手法の違いであり、根本は同じだ。はき違えると、ケガをする。これは多分、自分がスペシャリスト寄りの人生に身を置いているから出てくる言葉だろう。きっと、信念をもったユーティリティから見える景色もまた存在する。だからこそ、今年の日本シリーズは面白い。さて結末はどうなるか。

競馬は基本、スペシャリストの世界。人間は自分の持ち場、役目を明確にし、その道を追い求める。そして、馬もまたしかり。イクイノックスのようにいつでも、どこでも、どんな距離でも、スタイルすら問わず結果を出すことはそうはない。「馬は走る距離を知らない」という言葉に象徴されるように、馬自身が適性に合わせるという概念はない。馬の適性を人が探し、そこに当てはめる。馬自身はスペシャリストであり、その専門性をレースで表現するしかない。そんな表現をつかまえる感性こそが、馬券上手になるために磨くべきものだろう。

アルゼンチン共和国杯は目黒記念と同じ東京芝2500m。特殊な舞台だけに、このコースのスペシャリストを見つければいい。ヒートオンビートとディアスティマの斤量差は目黒記念1キロに対し、今回は1.5キロに開いた。ディアスティマ優位でもいいが、ヒートオンビートは昨年のアルゼンチン共和国杯3着。直線での不利が痛かった。目黒記念は後半1000m11.7-11.7-11.2-11.3-12.0とハイレベル。中団から上がり33.9は総合力の賜物であり、最後まできっちり末脚を繰り出せるのは得意舞台の証だ。この流れを演出したディアスティマを認めつつも、最後12.0でギリギリのパフォーマンスだったとすると、休み明けでそこまで力を振り絞れるかどうか。

新たにここで東京芝2500mに適性があることを証明する馬も探さないといけない。適性を予測し、原石を掘るのもまた競馬の感性というもの。先物買いは穴屋の基礎だ。目黒記念10着だったアーティットは大阪ーハンブルクCで見せた我慢強さに適性を感じる。このレース最後は11.6-11.1-12.4で瞬発力+バテ比べという阪神芝2600mらしい落差激しい競馬だった。これを4コーナー先頭から押し切ったアーティットは瞬発力勝負も我慢比べにも強い。東京芝2500m適性は高く、目黒記念を経験して、今度はもっと粘れるはずだ。どちらの友道厩舎だが、この厩舎こそ、中距離のスペシャリストでもある。

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