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【高松宮記念】雨が阻む連勝という壁

戦国三大奇襲のひとつ桶狭間の戦いは1560年6月12日に織田信長が海道一の弓取り今川義元を破り、下克上を果たした一戦として有名だ。最近は奇襲でもなんでもなく、情報戦による正面突破説が有力だが、今川軍の行軍を足止めしたであろう雨も信長の勝利に加担したといわれる。大軍ゆえに一気に動けなかった今川軍は侵攻が順調だったことと雨を理由にひと休みした。今のように灯りがない時代、山中での休憩に不安はなかったのか。なぜ、そんなところで休んだのかという問いへの答えとして、今川義元は愚将だった説が存在するが、そんなはずはない。駿河、遠江を支配し、西三河の松平氏を従え、三河から織田勢を駆逐し、織田方との争いに勝利した。今川義元とはそんな武将だ。愚かだったわけではないが、油断はあったかもしれない。人間、順調なときほど、思ってもない穴に落ちる。必ずどこかに穴を掘って、人を蹴落とそうとする人間は存在する。残念なことだが、それも人間の性。妬みほど人を狂わせるものはない。

話を戻そう。今川軍の油断には同情できる。今だって舗装されていないぬかるみを延々と歩き続けるのはイヤになる。生活の大半をアスファルトで過ごす私たちは、少し先を想像してみないといけない。ちょっとした想像を怠るだけで、人間は歪む。なんでも自分に置き換えるのではなく、自分を当事者に置き換える視点こそが想像だ。このちょっとした違いが、どうにも分からない人間が増えた。自分ごとではないことは、他人ごととしてその立場に立ってみないといけない。私は自分を信じろという言葉に嫌気を感じる。そんなに自分とは信頼に足るものなのか。そこまで強固な自分を作ってきた自負が一切ないので、私は自分を信じない。自分を疑うところからはじめても、人生はたいして変わらない。疑うというのは良くないことだとするポジティブさは苦手である。

話がどこかへいってしまった。つまりは桶狭間は雨が運命を狂わせた。どうもその歴史がここにきてぶり返しつつある。高松宮記念は2000年以降、良馬場16回、それ以外8回と雨が似合うGⅠでもある。さらにいえば、2020年から4年連続で重か不良で行われ、すっかり雨に祟られる電撃戦となった。そして、今年も雨が命運を握るレースになりそうだ。2000年以降、良馬場以外の8回で1番人気は1-1-2-4。勝ったのは2007年スズカフェニックスだけだ。8番人気、9番人気、12番人気が1勝ずつで、やはりスプリント戦の最大の敵は雨だ。この間、前走距離が長い馬に雨の女神は微笑みそうだが、同距離が6-3-3-74。さらに前走1着は1-1-1-13とよく負ける。雨は連勝を阻み、人気を狂わせる。一方で前走2着は4-2-0-8。昨年のファストフォースもこのデータでとれた。その前年ナランフレグ、17年セイウンコウセイ、15年エアロヴェロシティもこのデータに合致した。

ビッグシーザーはメンバー中唯一の前走1200m2着馬。もう決まりだ。中京芝1200mは2歳時とはいえ2戦2勝。クセのある急坂コースは独立王国を形成するため、コース巧者を狙えは鉄則のひとつ。3歳後半にきっちり古馬オープンの壁にぶち当たったのもいい。負けが強くする。まさに人生のよう。先日亡くなった愛知出身の鳥山明氏が描いた「ドラゴンボール」は、主人公が負けるたびに強くなっていくから面白かった。いかん、話しが逸れた。ビッグシーザーは今年に入り、1、2着とオープンで結果を残した。この心境の変化は見逃せない。それだけではなく、前走オーシャンSでは差す形でラスト伸びてきた。明らかにビッグシーザーのイメージは一新された。スピード任せの競馬をしなくてよくなったのは、雨の高松宮記念では最大の武器となる。1月から3月2-1-0-0の冬馬で、ここはチャンスだ。道悪は0-1-1-0で苦にしない。父ビッグアーサーは16年良馬場の高松宮記念を1.06.7でレコードV。GⅠ初出走だった。息子も同じく今回、GⅠ初出走。満を持しての挑戦だ。

桶狭間の戦いで今川義元を破った織田信長はあらゆる条件を分析し、勝てると踏んで加勢に出た。たまたま勝ったわけではない。勝てる条件がそろったときに勝つ。信長は勝機を逃さない天才だった。勝機の見極めに長けていたからこそ、金ヶ崎では一気に撤退することもできた。なにごとも行くも戻るも、タイミングと決断が肝要だ。自分を信じすぎると、進むのは容易くても、戻りが難しくなる。この複雑な世、突進だけでは生きられない。退却もまた人生だ。


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