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【大阪杯】正体不明な不安との戦い

四十も半ばを過ぎ、いよいよ五十代の舞台が目の前にチラつくようになる。よくもまあ、こんなフラフラな生き方をしてここまできたものだと我ながら思う。一方で、五十の壁が見えてくると、なんだかんだと変わってくるものがある。まず、これまでそこまで心配しなかった健康について悩みはじめる。おかげさまで大病もなく、ここまで生きてこられたが、ここにきて静かに健康の危機が訪れつつある予感がある。まだ戦うべき相手がなんなのかわからない。脅威となる存在なのか、杞憂に終わるのか。正体不明な相手ではどうしようもない。いまはただ、脅威ではないことを祈るしかない。

異変に対し、早く気づけたのかどうかすらなんともいえない。早期であることも祈るしかあるまい。だが、人間とは不安ほど怖いものはなく、いらぬ想像が頭を巡らせる。せっかく、再始動したばかりだというのに、また躓いた。これまで私の人生は大概そんな感じだ。仕切り直してさあいこうとなると、その矢先に必ず何かが阻んでくる。躓いては倒れまいと踏ん張りを繰り返してきた。ときに倒れても起き上がり、また歩きはじめる。そんな人生だった気がする。

今度もまた躓く程度で済んでくれればいいが、年齢も年齢であり、そろそろ健康であり続ける難しさを痛感する出来事が起こっても不思議ではないだろう。ここまで生きて、自分は別にいつ命を落としてもいい。それは来るときが来る。そんな開き直りがどうにもできない。背負うものがあると、簡単に崩れ落ちるわけにはいかない。もちろん、それを背負ったのは自分が決めたことなので、後悔はなに一つないが、背負うものを放り投げて生きられるほど、自分の人生が身軽ではないと改めて知る。

大阪杯は有力騎手がドバイ遠征中だからか、例年に増して立場が難しい。ここまでどこかで躓いてきた馬たちが自分たちが生きる道を立て直すようなレースに思えてならない。しかし、大阪杯の勝ち馬はキタサンブラック、スワーヴリチャード、アルアインとみんな種牡馬入り後、クラシック有力候補を送る馬たちばかり。GⅠ昇格後、どうも微妙な立ち位置にあり続けるレースだが、やはり2000mのGⅠは価値がある。現代競馬はスピードと持続力、瞬発力の総合力が求められる。そんな力を試すかっこうの舞台が2000m。天皇賞(秋)と同じ距離の大阪杯はさらに内回りの分、器用さも必要になる。機動性も備わったGⅠ馬の出現は、いずれ日本競馬界に還元されるだろう。

阪神芝2000mは前半1コーナーまでの入り方がカギになる。スタートから急坂を越え、約300mで突入する阪神の1コーナーは半径が小さく、キツい。ごちゃついて位置を下げてしまうと、挽回が難しい舞台だ。そんな阪神芝2000mで成績がいいのは、今年の出走馬のなかではディープインパクト、ハーツクライ、キングカメハメハの三強。さすが2000m。やはり日本を代表する種牡馬たちは強い。なかでも、極端なのがハーツクライだ。過去5年で【16-15-19-142】で、距離短縮だと【4-2-2-16】で勝率は16.7%に高まる。同距離【3-7-6-58】勝率4.1%、距離延長【6-3-8-46】勝率9.5%と比較ても明らかに内容が濃い。三強のなかでも長距離志向のハーツクライは基本的に距離延長時に強い。前走よりペースが遅くなったときに力を出す種牡馬はエピファネイアなど長距離志向が多い。短縮に強いロードカナロア、モーリスなど種牡馬にも個性がある。そんな傾向と逆を行くのが阪神芝2000mのハーツクライ。長距離志向の種牡馬らしく、鈍重なタイプが多いだけに、この数字は少々意外な気がする。

◎はそんな短縮のハーツクライのハーパーとする。これまで躓いた馬たちのなかでも、この馬はリバティアイランドという存在に翻弄され続けた。三冠4、2、3着。印象的だったのはリバティアイランドを徹底マークしたオークスだ。最後の直線ではあっさり突き放されたが、そこから諦めずに踏ん張り、2着を守った。あれだけマークし、置いていかれると、人間でもきっと嫌気が差す。だが、ハーパーは違った。秋華賞3着で内回りへの不安もあるが、有馬記念9着はソールオリエンスに先着し、タスティエーラには0.1しか負けていない。3歳牝馬で揉まれても、決してレースを捨てなかった。

逃げ馬はいないものの、先行勢がそろった一戦は1コーナーまでのポジション争いも激しくなる。枠順もよく、あえてそこに加わってもよし、それらを先にやり、じっとするもよし。ハーパーには鞍上の意のままに動ける自在性がある。機動力と最後まで走り切るひた向きさが大阪杯に合わないはずがない。最終追い切りも内回りを想定し、早めから負荷をかけ、最後まで粘らせる内容で好感をもてる。今週の友道厩舎はドバイのドウデュース一色かもしれないが、案外、女神が微笑むのはこちらではないか。人生はそうそう計画通りなどいかないものだ。

相手はローシャムパーク。明らかに調教時計がワンランク上になった。ジャッジが慎重な田中博康厩舎がこうも目に見えて負荷をかけてきたのは、ローシャムパークの体質が強くなった証だろう。昨年はイクイノックスがいた国内を避ける形になったのも、慎重さが導いた大胆さというもの。勝負をかけてきた田中博康厩舎の凄みはレモンポップが昨年、証明した。王道路線で看板馬を輩出し、ここから更なる飛躍を遂げてほしい。



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