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キャンプスタイルについて

去年の夏、突然キャンプにハマった。
一緒に行く人やキャンプの先輩などはいなかったから、人生初キャンプがソロキャンプだった。
私は50歳になる直前で、「今やっておかないと一生やらずに後悔することは何か」と考えたとき、思い至ったのがキャンプだった。まあまあひどい目に遭ったが、懲りることなく現在まで続いている。

最初は本当にひどかった。
リュックにキャリーにメッセンジャーバッグと大荷物なのに、必要なものはまったく足りなかった。
駅の階段でまず苦労し、キャンプ場に着いてからも勝手が分からず、急な坂の上にある管理棟やトイレや水場を何度も往復した。
夕飯は白飯とインスタント味噌汁とツナ缶だけで、全然足りなくて売店でお菓子を買った。
地面は河原の砂利で、ペラペラのマットと寝袋で一晩寝たら全身痣だらけになり、帰宅後即エアーマットを注文した。
暑かったので軽装でいたら膝下を10ヶ所以上ヤブ蚊に刺された、と思っていたらブヨだったらしくひどい痒みが続いた。
それでもものすごく楽しかったのを覚えている。

だから夏の終わりにまた別のキャンプ場へ行った。装備は少しマシになっていて、エアーマットや焚き火台、ランタンハンガーあたりが増えていた。米を炊き、一丁前に肉を焼いたりして、わりとまともなものを食べられた。夜から雨が降り始めたが、予報通りではあった。
雨は翌朝本降りになっていた。
まだ8月なのに気温は25度程度だった。地面は砂まじりの泥で、テントの床は冷たかった。私はしばらく寝袋の中にいて、買ったばかりのエアーマットに深く感謝した。
とはいえ撤収しなければならない。椅子も焚き火台も外に出しっぱなしでびしょ濡れだ。ランタンは片付けてあったが、ランタンハンガーにキャップをひっかけたままで、もちろんかぶるのは無理そうだった。
雨は止みそうにない。私は仕方なく、本当に仕方なく片付けを始めた。
レインポンチョでテントの外に出る。燃え残りの灰が濡れてどろどろになった焚き火台と焚き火シートはどうすればいいのだろう。自分もどろどろになりながら灰捨て場に行き、ある程度は片付けた。雨の中焚き火台やシートを洗う気力はなかった。テントは乾かしようがないので濡れたまま45Lゴミ袋に詰めた。雨に濡れたランタンポールは鉄製だ。錆びないか気になるが、拭くものを持ってないので濡れたまま短くしてしまう。椅子はリュックの外側、いちばん上にくくりつけたと思う。
すべてを背負って駅まで歩く。
荷物が重い。水を吸っているのと疲れているせいで余計に重く感じる。もちろん自分もずぶ濡れだ。駅までは徒歩で15分ぐらいのはずだが、土地勘がないのでもっと歩いているような気がする。
荷物が重たい。全部捨ててしまいたい。いちばん上にくくりつけた、重くてかさばって、そのわりに気に入っていない椅子を捨てて帰りたい。
椅子をそのへんの畑に捨てなかったのは「迷惑キャンパー」のレッテルが怖かったからだ。帰り道にゴミ捨て場があったら間違いなく捨てていた。
駅に着いたときの気持ちは覚えていない。駅舎にくっついている食堂が開いていたので入り、何か注文して食べ1時間ぐらい動けずにいた。
電車に乗ってから家にいる夫にLINEをし、自宅最寄り駅よりずっと手前の乗り換え駅まで車で迎えにきてもらった。おかげで無事帰宅できたが、すべての荷物を片付けるのに1週間ぐらいかかった。
それでもわたしはキャンプをやめなかった。
やっぱり楽しかったのだ。
焚き火で焼いた肉がおいしかった。安物だが自分で選んだエアーマットが自分を守ってくれた。背負っていける荷物の量には限度があると痛感した。

私は物欲が強くてすぐ欲しがるくせに飽き性という性質があって、自分でも持て余している。
もちろんキャンプに行ったぐらいで物欲がおさまったりはしないし、現在進行形の買い物依存症だけど、キャンプと道具に関しては私の中にいくつかルールができた。

・キャンプは徒歩と公共交通機関で行く。
・荷物は40Lのリュックとサコッシュに入るだけ。
・快適性をあきらめない。

私が目指すキャンプスタイルはウルトラライト(UL)キャンプと呼ばれるものに近かった。

物欲にまみれたまま、軽量で快適なキャンプのためにあれもこれも欲しいとなった。実際たくさんの道具を買い足したり買い替えたりした。
まず軽くて小さくたためる椅子。暖かく眠れる寝袋。簡易的なヒーターも必要だ。

3回目のキャンプは10月の下旬で、電車で3時間以上かかる場所だった。
いちばん警戒したのは寒さだった。銀マットにエアーマット、寝袋、膝掛け、カセットガスが使えるヒーター、ヒーターアタッチメントと遮熱板、焚き火台と耐熱シート。寒さ対策だけでもこれだけあった。でも荷物も軽くしたい。寒さも重さも恐怖だった。
買い替えで椅子の重さは半分ぐらいになり、1キロを切った。その分ヒーターが増えた。寝袋も夏用から3シーズン用に買い替え、軽くかさばらなくなった。
リュックにまずテントと寝袋とマットとヒーターを入れ、次に鍋と燃料と食料を詰め、さらにその隙間に着替えや洗面用具を詰め込んだ。重さは覚えていないが、背負ったときの感覚が全然違った。
電車を乗り継いで行ったキャンプ場は、やはり寒かったが快適だった。キャンプ場自体がほぼ平坦だったのも幸いした。トイレや洗い場に気軽に行けた。寝る前に少しだけストーブをつけ、テント内を暖めて眠った。初めて「成功」といえるキャンプだった。

もちろんひどいことはいっぱいあって、クレジットカードの使いすぎで支払いが大変なことになったり、冬の間に体調を崩して2回休職したりした。

今でもキャンプは続けていて、荷物は11キロ程度におさめている。それでも帰りは重く感じるから、最初はいったい何キロ背負っていたのだろう。そもそも11キロはULとはまったく呼べない重さだ。
ネットで買い物をしすぎるのでAmazonと楽天のカード情報は削除した。新製品やセール情報もあまり見ないようにしている。
買えば荷物が増える。買い替えはたまにするが、重くても持って行きたい道具というのはあるから、それを越えるお気に入りがなければ買わない。

私にとってのULは目的ではなくて快適なキャンプのための手段だから、軽くするために気に入らないものを使うとか、お気に入りの道具を置いていくとかはしない。最近はランタンをガラス製からPVC製にした。軽いしたためるのがとても良い。引退したガラス製ランタンは自宅のベッドサイドで使っている。

いつか欲しいと思っているリュックは10キロ程度の荷物を想定しているので、荷物が10キロ切ったら買おうと思っている。
あと1キロ。

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