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キラキラカレシ マキオ13|悪魔の正体

スリルと悪魔

マキオは避妊しない男。
彼はふだんからよく自分のことを悪魔と形容した。

「スリルをとるのがオレ」
「悪魔と言われるのは最高のホメ言葉」

己について「君臨する何かしら」というイメージをもつ男、マキオ。

実際は?
彼のスケールからして悪魔は言い過ぎだ。
でも「誇大妄想とはどんなものであるか?」を人に説明したい場合にはマキオがちょうどいい見本として役立つ。

真の彼を知る人なら10人中10人が言うだろう。
「マキオか、あれは外側だけだ」


告知と悪魔

話を戻そう。
マキオは避妊しない男。

それで。
妊娠を告げた時の彼の第一声はこうだった。

「え、大丈夫だと思ってたし、え、オレ・・・?」

わたしは淡々と話す。
どうするか?

マキオはいろいろ言う。

「オレ?オレには何も言う権利ないし・・・?好きにしたらいいと思うけど・・・」

まだ市販検査薬の段階だった。
その日はとりあえず、「明日、病院へ行こうと思ってる」とだけ告げた。

変化

自分の中で不思議な変化が起こっていた。
マキオは相変わらず。
だけどわたしの体には力がみなぎっている。

その日は一日中、退勤時刻が待ちきれなかった。
ソワソワするような気持ちで病院へ向かう。

産婦人科の診察室。
エコー検査のモニター越しに、ちいさな命に初めて会った。

吹きっさらしだった地面に花が咲いて、お天気雨が降りはじめた。
まるでそんな心持ちだった。

愛おしい気持ちでいっぱい。
あなたに会いたい。


悪魔の正体

一方マキオの態度は予想のかなり上をいった。

悪魔は逃げまわる。
連絡が取れない。
わたしは何度も電話する。

ようやくつながっても彼はいろいろ並べたてるばかり。
ほとんど話にならない。

「オレ今日これから友達とマージャンの約束あるから。友達の休みに合わせて予定してたことだから。ちょうど4人しかいないし。大学時代からのすごく大事な友達でオレのこと待ってるしオレだけドタキャンなんてできないし」

話さないといけないよ。

「今、オレがマージャンをやめてそっち行くこともできるよ。オレがそうすることはできる。でもさ、オレがマージャンを諦めたとしてもオレのマージャンをやりたかった気持ちは消えるわけじゃないんだよ。記憶はずっと残るの。キミさ、キミのせいでマージャンができなかったっていうオレの記憶は消せないんだよ?それでもキミはオレに諦めさせたいって思う?つまりオレにどう思われてもいいってこと?」

話さないといけないよ。

「わかった。そんなに言うんならいいけど。ちょっとくらいなら大丈夫かもしれないから、こっち来れる?玄関前に着いたら電話鳴らしてもらえれば、そしたらオレ、タバコ吸ってくるわってみんなに言って、ぱぱっと出て5分くらいだったら大丈夫だと思うから。呼ばれたらすぐ戻らなきゃいけないけどね。みんなに悪いしさ。だってキミがみんなを納得させられないでしょ?だよね?」

5分で済むのかわからないけど、話さないといけないよ。

「なんで?今にこだわる必要ある?ほんと融通きかないよな?なんで明日じゃだめなの?オレの予定は前から決まって....(以下略)....」

予想以上に苦労したものの、直接マキオに会い、自分の意思を伝えた。

病院へ行って赤ちゃんに会った。
産もうと思ってる。

「そう思うならそうするのがいいんじゃない?オレにはなにもできることないと思うけど、好きにしたらいいよ。」

マキオはただ逃げた。
わたしから、責任から、人間らしさから。


彼の生き方

彼には責任のともなう意思決定ができなかった。

いつでも他人の意思でそうなったことにしておけば、己の責任を問われずに済む。おいしいところだけをいただくのがマキオ流の生き方だった。

彼に真意など期待したわたしが見誤っていたのだ。
わたしは対話そのものをあきらめた。

自分の生き方

マキオの家から戻ってからも、いろいろな思いが頭をめぐる。
仕事のこと、実家のこと、生活のこと。

生き方を考えなければならない。
急に来た現実に戸惑いも不安もありすぎた。頭がパンクしそうだったけど、ひとつひとつ。

ひとつひとつ・・・そうだ、タバコ捨てなくちゃ。
もうすでに全く吸いたくない。

(どうしてこんなものが毎日必要だったのだろう?)

ストックしていた箱ごとゴミ箱へ放り込んだ。
気分がいい。

(そうだ、ついでにマキオも捨てる?)

最後くらい「ごめん」って一言きちんと謝ってくれればいいのに。
そんな思いもないわけではなかった。

彼の執着心にはこれまで大変な思いをさせられてきた。
普通に言う「束縛」の範囲をはるかに超えていたと思う。

理不尽な苦難を負わされたあげく、こんなふうに軽く投げ出しておしまいだなんて。悲しいよりもなんだかだんだん腹が立ってきたぞ。ここはさすがに譲れない。
マキオ、謝れわたしに!
そうすればわたしがオマエを蹴り捨てる!


悪魔の正体にイラ立ったり、がっかりしたり、腹をたてたり。
ジェットコースターのような数日間だった。



*モラハラ・ポイント*

  1. 誇大妄想

  2. 責任ある決断ができない(言葉にもできない)



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