読切小説「無人のプラットホーム」
読切小説「無人のプラットホーム」
走る電車の窓から赤く染まった太陽が時間をかけてゆっくりと沈んでいく。
イマイチな合コンだったな。
そんな敗者にも似た感想を活字にしたい気分だった。後から思うことは、あとの祭りというわけだ。
タイムマシンはいつ頃完成するのか。完成した暁には、やり直したい過去に戻ってみたい。
非現実に物事を考えることは、決して無駄じゃない。そんな言葉を言ったのは、今日の合コンで知り合った女の言葉だった。
なんて名前だっけ。顔は普通でスタイルも普通だったし、髪型は好みじゃなかったな。
思い出した。トワって名前だ。確か永遠と書いてトワって読むんだ。やけに上から目線で話す女。さらに揚げ足も取る女だった。
さっきの発言を取り消したいな。イマイチな合コンじゃなくて、最低最悪な合コンだった。三々で他の二人は上玉とは言えないが、そこそこ可愛らしい女。
だけど、トワって女は一人で喋り倒していた。やっぱり最低最悪な合コンで嫌味な女だった。何が永遠でトワなんて、お洒落な名前を付けてもらってんだよ。
大した顔もしてなかったし、性格は悪すぎるだろう。トワならトワっぽく振る舞えよ。
半分八つ当たりなんだけど、僕は今日の失敗談を語るように、流れる景色へ活字を投下した。
走る電車の中、僕と今日の失敗談は引き裂かれるように離れて行った。ムカムカを胸に感じつつ、僕を乗せた電車は駅に到着した。
腕時計で時間を確認すると、午後の零時になっていた。最終電車だったので車内に人の数はまばらだった。
ホームから改札口へ歩いて、ジーンズの後ろポケットから財布を取り出す。SUICAを手に取り、改札口を通ろうとした時だった。
ピコンピコンと改札機が僕を妨げた。SUICAを添えた料金表示の画面に黒いデジタル文字で、料金不足と表示されている。
あれ?チャージは充分されていた筈なのに!?
何故と思った。僕は後ろを振り返る。すると、誰の姿もなく、改札口の前は静かな雰囲気が漂っていた。さっきまで何人か居た筈なのに。
変だなと思いながら、僕は不足分をチャージしようとした。
差し込み口にSUICAを挿入すると、料金表示は二千八百円と表示した。やっぱり。勘違いではなかった。
SUICAは充分にチャージされているのだ。やれやれと小さな声で呟いた。
そして、再び改札機を通ろうとして、SUICAを機械に当てた。
ピコンピコンピコンガシャン!!!!
「おいおい何だよ!?」
僕は仕方なく隣の改札機に移動した。そして、少し慎重にSUICAを当てる。
するとやっぱり、改札機は僕の方向進行を拒んだ。
ちょっと何なんだよ!!ムカつきながら、僕はもう一度SUICAを当てた時だった。
「なんだよ。どういう意味?」
改札機の表示画面に、さっきと違う表示がされた。僕は驚いて、その場で動けなかった。
何故なら料金不足でもなかったのだ。SUICAは充分にチャージされている。
だけど、僕の目に映った表示は。
「経験不足!?」
僕は一人、改札口の前で途方にくれるのだった。一体、経験不足とはなんなのか!?
僕はこの意味のわからない状況に、ただただ唖然とするしかなかった。
~おわり〜
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