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読切小説「真夜中の電話に悩まされる日々」
読切小説「真夜中の電話に悩まされる日々」
その日、僕は深夜の二時過ぎにベッドへ入った。夕食は帰りに買った行きつけの弁当屋。焼肉弁当にするか、カツ丼にするべきか悩んだ挙句、結局焼肉弁当にした。
薄っぺらいバラ肉の焼肉弁当。特別美味しいわけじゃないけど、何となく肉を食べたかったのか、焼肉弁当を選んで持ち帰った。独身で一人暮らしの生活は、これと言って刺激のない毎日が淡々と過ぎるものだ。
かれこれ八年、ガールフレンドもいなかった。帰って来ては、『ただいま』と『おかえり』を一人で演じていた。
虚しいかもしれないが、それはある意味生活リズムに馴染んで、当たり前として生活習慣になっていたのだ。
そんな生活を始めて、八年と四ヶ月目の夜、ほとんど鳴らない電話が真夜中に鳴った。
「もしもし……」と半分寝ぼけた状態で掛かって来た電話に出る。
ツゥーツゥーツゥー
切れてら……。
僕が電話に出た瞬間、相手は通話を切った。真夜中の静寂な部屋で、耳元にツゥーツゥーツゥーと無機質な音を繰り返していた。
間違い電話だと思った。思っては目をこすって受話器へ戻した。欠伸を一つして、ベットへ戻ろうとした時、再び電話が鳴り出した。
プルルル……プルルル……と。
三回、四回、五回、六回と電話はいつまでも鳴り続ける。目元を抑えて、溜息と同時に受話器へ手を置いた。
誰だよーーなんて心の中で思いながらも、僕はもう一度、真夜中の電話に出るのだった。
「はい、もしもし……」
ツゥーツゥーツゥー
切れてら……。
これって間違い電話じゃなくて、イタズラ電話だな。まったく暇な人間もいるもんだ。通話口を見つめながら、回線の向こうにいる相手を想像した。
想像しては、架空の人物の喜ぶ顔に虫唾が走る。時計の針は二時半をもうすぐ過ぎようとしている。首を動かして骨の音が大きく聞こえる時刻だ。
次掛かって来たら、電源のコードを抜いてやろう。もしも相手が切らなかったら、文句の一つも言ってやる。
いや、どうせ相手の顔が見えないんだから、文句の一つでも言ってやるか。そう思うだけで、受話器の持つ手に力が入る。温厚な僕でも怒る時は怒るんだ。
フゥーと息を吐いて、少し乱暴気味に受話器を下ろした。次の瞬間、真夜中の電話は、僕が下ろすタイミングを見計らったように鳴り出した!!
一瞬、驚いたけど怒っていたこともあって、僕はコールガールのように電話へ出た。
そして、耳元に聞こえるのは三度目の切れた音。
ツゥーツゥーツゥー
受話器に耳を押し当てたまま固まってしまう。バカにしてるのか?
それとも、僕の動きでも見てるのか?いやいや、それはないだろう。部屋のカーテンは閉じているし、大体が独身男の一人暮らしに、盗聴や盗撮という類いは仕掛けないだろう。
仕事が終わって、寝るだけの生活をしてる男の部屋なんて、誰が興味あるんだよ。
これは単なるイタズラ電話で、究極の暇人がやることだ。仕方が無い。電源のコードを抜いて眠りにつこう。
いつまでも、相手にしても時間の無駄だ。そう思って受話器を戻そうとした時、耳元へ、誰かの声が聞こえた!?
ツゥー……もしもし……ツゥー……もしもし……
えっ!?
これって、切れてるよな……
皆さん、その真夜中の電話、切れてると思ったら大間違いかもしれない。
その電話の向こう側に、得体の知れない相手が、何度も何度も繰り返し囁き続けているかもしれない。
もしもし……もしもし……もしもし……ってね。
そして僕は、この日の夜をきっかけに真夜中の電話に悩まされる日々を送るのだった。
~おわり~
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