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読切小説「意味のないことは僕の中で好きなこと」

読切小説「意味のないことは僕の中で好きなこと」

誠実な対応をするコンビニ店員。レジで一人の男と揉めていた。週刊誌とのど飴がレジのカウンターに置かれている。

それを見る限り、どうして男が文句を言っているのかわからない。缶コーヒーを買いに来ただけなのに、僕はレジで揉める男の光景を見る羽目になった。

別に店を変えて、他のコンビニに行けば問題ないんだけど、何となく店を変えるのに躊躇した。

躊躇したイコール、店を変える必要性はなくなった。

男とコンビニ店員のやり取りは、きっと長くなるだろう。男は一方的に文句を言っている。ちょっとした暴言も吐いていたし、ひょっとしたらギリギリのラインで脅しくさい言葉も発している。

もしも僕がここのコンビニ店員でこの男がクレームを言ってきたら、店長に任せて逃げるかもしれない。

基本的に面倒なことに巻き込まれるのはイヤ。

まあ、その日の体調や気分にもよるけど、クレームはクレームで疲れる対応が待っている。まずはお客様の言い分を聞きましょう。

話しはそれからですと、ここのコンビニ店員は誠実な対応をしていた。

僕が店を変えなかった理由があるとしたら、ここのコンビニ店員の対応が良かったことだ。強いと言えば、それが店を変えない理由である。

全くもって、誠実な対応をするじゃないか。まずはお客様の言い分を聞きましょう。話しはそれからです。

気持ちいいぐらい筋が通っている。コンビニ店員で終わらせるのが勿体無い。彼ならもっと質のいい会社に勤めた方が良かろうに。

などと勝手な想像をしながら、僕はすっかり温くなった缶コーヒーを持ちながら観察した。

男の口調が段々と落ち着いてくる。表情を横から見ると、参ったなと言いそうな、そんな表情が伺える。

逆転ホームランを打ったのはコンビニ店員だ。男の態度がみるみるうちに落ち着きを取り戻す。ついには笑ってしまっている。

きっとゲームセット。コンビニ店員の満足げな顔が浮かんだ。男は代金を支払って、気分上々でコンビニから出て行った。

記念写真でも撮ろうかな。そんなことを考えた。男の立ち去る姿を見つめるコンビニ店員の表情があまりにも素敵だったからだ。

まあ、それはそれでまた今度の機会にと。僕も缶コーヒーを買って、コンビニを出て行った。君にこの話をしたら、きっと君は興味なんて持たないだろうな。

くだらないと一言で片付けられる。それをわかっていながら君に話す。

予想通りの言葉が返ってくると、僕は頭の中にあるノートにシールを貼った。

僕の予想ノートにはこれまでの答え合わせしたシールが溜まっていた。

そんな意味のないことをしては優越感に浸って、意味のない毎日を過ごしている。

意味のないことは、僕の中では好きなこと。いつかは必ず自分のことが好きなる。そんなことを知った瞬間でもあった。

意味のないか。

〜おわり〜

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