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読切小説「Fの会話」

読切小説「Fの会話」

季節外れのそうめんを食べようと、麺つゆを手に取る。念の為、賞味期限を確認したら三ヶ月以上も過ぎていた。

思わず、深い溜息が口からもれる。

「何よその目、何か文句があったら言いなさいよ」と上目遣いでワイフが言う。

「別にどうもしないけど」と僕は箸を置いて言い返す。

「ああ、もしかして賞味期限切れてんの?だから怒ってるのね。顔が」

「あのさ、知ってたんだろう。知ってて出したんだろう」と疑いの目で言う。

「知らなかったわよ。知ってたら、そうめんなんか作らないでしょう。それに、食べたいって言ったのはあなたの方でしょう。それをあたかも私のせいにするなんて卑怯よ」

「卑怯!?そこまで言うかな。それって言い過ぎだろう。それに、僕はそうめんなんか好きじゃない」と置いた箸を持ち、ワイフに向かって箸で指差した。

「あら?好きじゃなかったっけ」と白々しく言う。

まったく毎回、ワイフはシラを切っては誤魔化すクセがあった。大体が昔からそうなんだ。初めて知り合った時から変わっていない。

シラを切っては誤魔化して、決して解決しようとしない。何をそんなに間違えるんだ。僕はどちらかと言えば、パスタが好きなんだよ。

そうめんなんて、好き好んでは食べようとは思わない。

「あのさ、昨日の夜、寝てる時に屋根裏から変な音が聞こえなかった?あなたが寝静まった頃、私はしばらく寝れなかったのよ。それで天井を見上げたら変な音がしたの」

そうめんの話は終わったのか。僕の中では解決していない。それでもワイフはいつも通り、話題をすり替えるように変えて話すのだった。

呆れて何も言えない。仕方なく、次の話題について答えた。

と言っても、僕は先に寝てしまったし、屋根裏からの変な音は聞いていない。だから知らないと答えるしかなかった。

「ホントに知らないの!?あれだけの音に気づかないなんて信じられないわ」ワイフは目を丸くして驚いた顔で聞き返す。

「それってどんな音だったの?」

「どんな音って」と昨晩のことを思い出すようにして、持った箸を指揮者みたいに動かした。

「カサカサ?違うな?もっとねちこい感じの音だったわ」

「ねちこいって、音からそんな風に感じたのか。お餅じゃないんだからさ。それにカサカサならねちっこくはないだろう。君の言ってる事はおかしいよ」

「だからカサカサは違うって!!とにかく、言葉で表現するのは難しいのよ。私が感じたのはねちっこくって、なんか嫌な気分にさせるような音だったわ。そうね、吐き気がするような音よ。わかるでしょう?」

「わからないね。前から言おうと思ったんだけど、君の話しって曖昧で現実味がないんだよ。もう少し情報をはっきり集めてだな。それで相手にもわかるように話すんだな。この話しは終わりだ。それよりも、僕はそうめんのつゆが問題だよ。賞味期限が切れてんなら食べれない。君の味付けで良いから作ってよ」

「良いわよ。但し、あなたが今から屋根裏の音を確かめてからよ。そしたら作ってあげる。それが条件でそれ以外は受け付けないわ」

僕は箸を置いて、深い溜息をしてワイフの顔をそっと見た。ワイフの見る目が絶対に譲らないという表情をしていた。

これは絶望的だと一目でわかった。ワイフは意地でも屋根裏の音の正体を突き止めるつもりだ。

僕は諦めるように席を立って、寝室へと向かった。この際、そうめんのつゆが賞味期限切れでも良かったのだが。

二人の会話は他の人からしたら、きっと変だろう。屋根裏に住む住人はワイフにどんな音を聞かせたのか?

それだけは、確かに気になるのだった。

~おわり〜

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