合作小説「きっと、天使なのだと思う」
合作小説「きっと、天使なのだと思う」
第2話
透明感のある声に、僕は数秒間動けなくなった。少女の印象ある瞳が、世界の色を正しい色に変えてしまったからだ。
それほど少女の瞳は、すべてを見透かしているように思えた。
「あの僕に‥‥‥」と小さな声で言った瞬間、僕の言葉を遮るように、後部座席のドアがゆっくりと開いた。
思わず後ずさりしてしまう。まず状況を把握していない事と、僕は小心者だからだ。それでも人形のような少女に少なからず興味が湧いていた。
僕の知らないところで世界が繋がるように、僕と少女は繋がっているかもしれない。無言なドアの向こう側に恐る恐るまわって、僕は後部座席に座る少女を見つめた。
あどけない表情と反対に、長いまつ毛は薄いピンクのワンピースとよく似合っていた。背筋をピンと伸ばして、膝の上にはウサギのぬいぐるみを置いていた。
「どうかな?彼は合格だと思う」と少女は膝の上に座わるウサギへ質問した。
もう訳がわからない。少女が何者でウサギに話しかけてる意味さえ理解できなかった。
そんな僕に、この状況はさらに奇っ怪な光景を見せてくれた。無意識に喉を鳴らして、そっと運転席側に視線を移した時、僕の目に映る光景に運転手の姿はいなかった。
僕の喉が再び鳴ったのは言うまでもない‥‥‥
「ええ、お嬢様。彼なら間違いないでしょう」
その時、少女の膝の上に座るウサギから、初老の男性のような声が聴こえた。そして、ウサギは膝の上からピョンと飛び降りると、あまりの衝撃に立ち尽くすことしか出来ない僕に、声をかけた。
「突然、失礼致しました。私はテトラ。クラリネットお嬢様に仕える者です」
まるで、紳士のような振る舞いのウサギを目の当たりにした僕は、思考が完全に停止してしまった。
何故、ウサギが喋るんだ。
何故、僕に話しかけているんだ。
何故、運転席に誰もいないのに、動いていたんだ。
この少女は、一体誰なんだ。
「‥‥‥あら、テトラ。彼は驚かれているみたいよ。フフッ‥‥‥。ねぇ、アルファベット、貴方も彼なら合格よね?」
少女が誰もいないはずの運転席に声をかけると、その問いに答えるようにクラクションが鳴った。
これは、夢だ。いや、幻覚だ。
きっと、暑さで脳がやられてしまったに違いない。そうじゃないと、不思議な少女、喋るウサギ、見えない誰かがいる運転席‥‥‥
そんな非現実的な物に出会うはずがないのだ。
「‥‥‥とりあえず、お乗りいただけますか?」
少女が僕の目をじっと見つめた。その瞬間、僕は雷に打たれた様な衝撃が全身を巡った。
一目惚れ? いや、違う。
ただ、『少女の声』『少女の瞳』に心を奪われただけだ。
「‥‥‥はい」
第3話につづく‥‥‥
葉桜色人×有馬晴希
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