合作小説「きっと、天使なのだと思う」
合作小説「きっと、天使なのだと思う」
第1話
ロールスロイスが横付けされて、風鈴みたいなクラクションが鳴った時、その音が、僕を呼び止めてると思いもしなかった。
だから耳で聞きながら、受け流すようにして歩みをやめなかった。
そんなもんだから、カブトムシの羽根みたいに光り輝くボンネットを装備したロールスロイスは、再びクラクションを鳴らすのだった。
すごいタイミングで、どこかの民家で風鈴が鳴り、同じく僕の横でカブトムシの羽根みたいに光り輝くボンネットを装備したロールスロイスが、風鈴みたいなクラクションを鳴らした。
さすがの僕も、立ち止まって考えてしまう。ひょっとして僕に向かってクラクションを鳴らしたのかと。
残暑が厳しいこの季節、真っ黒なロールスロイスは暑苦しいだろうと、横目で思いながらスモークで中が見えない車内へ視線を移した。
その時、真っ黒なガラスがゆっくり下がり始めた。スーッと微かな機械音が耳に届くと、僕の額からもスーッと汗が流れ落ちる。
漫画や映画で見たことがある展開で、例えるならば、この後、半分下がった窓からピストルが僕に向けられる。
という可能性も十分に考えられた。
「‥‥‥俺、何かしたっけ?」
冷や汗と心臓の鼓動で、身体が爆発しそうな衝動を抑えていた、その時、半分下がった窓から見えたのは、瞳が印象的な色白の少女だった。
長いまつ毛、少し赤みを帯びたほっそりとした頬、ぽてっとした真っ赤な唇に絹のような細い髪。
「ごきげんよう」
あまりの美しさに見とれてしまっていたようだ。
少女の声にハッとしながら、僕は安堵感が入り混じったぎこちない愛想笑いを返すが、すぐに次の不安が込み上げる。
知らない。こんな高級車に乗った人なんて。
知らない。こんな人形のような少女なんて‥‥‥
第2話に続く‥‥‥
葉桜色人×有馬晴希
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