「ごえんのお返しでございます」1話 糸屋「えん」⑨
五月の最終日。もうほとんど夏ではないか、という気温の中、僕は遅刻していた。
寝坊ではなく、腹痛でしばらくトイレから出られなかったという正当な理由だから、のんびりと歩いている。すでに担任には連絡済みだった。
朝のショートホームルームが始まる前には、教室に到着できそうだ。
人気のない玄関で靴を履き替え、時計を見ながら思った。
遅刻の理由は、あんまり突っ込まれたくない。高校生にもなって、からかってくる連中はいないと思うけれど、話題に出すこと自体、気分のいいことでは