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【連載】西洋美術雑感

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西洋美術から作品を取り上げてエッセイ評論を書いています。13世紀の前期ルネサンスのジョットーから始まって、印象派、そして現代美術まで、気ままに選んでお届けします。
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#北方

西洋美術雑感 18:レンブラント「水浴する女」

これまで北方ルネサンスの画家の描いた絵の底に隠れる奇妙な悪徳と、それゆえの幻想的な魅力について、だいぶ強調してしまった。そして、その独特の暗さは北欧の寒さゆえであろう、などと想像したわけだが、そのルネサンスの時代も過ぎると、北方のその暗さと重さは、幻想に向かう代わりに、静けさと自然さ、充足感のようなものへと向かって行ったように思える。 そんな次世代の北方の絵画の、その頂点に位置する画家が、オランダの画家、レンブラントであろう。 自分の感覚を言えば、レンブラントの絵画を

西洋美術雑感 17:ルーカス・クラナッハ「景色の中のヴィーナス」

北方の絵画を続けよう。これはルーカス・クラナッハ。 宗教改革のかのマルティン・ルターのお友だちで、教科書にも載っているおなじみのルターの肖像はクラナッハのものである。画家として名士として揺るぎない地位を築き長寿だった彼は、まさに大御所の威厳をもって、宗教画から肖像、寓意画まで数多く描いているが、少なくとも僕がクラナッハと言うと、一連の女性の裸体を描いた作品をまず上げる。一目見てクラナッハとわかる非常に個性的な姿なのである。 ここに上げたのは「風景の中のヴィーナス」で、

西洋美術雑感 16:マティアス・グリューネヴァルト「イーゼンハイムの祭壇画・磔刑図」

ついでなので、北方の絵画で行くところまで行ってしまおう。この陰惨極まりないキリストの磔刑図は、グリューネヴァルトのものである。 グリューネヴァルトを知っている人はどれぐらいいるのだろう。その特異さのせいで一部に有名ではあるけれど、メインストリームにはやはり乗らないのではないだろうか。時代的には、北方絵画の後年の巨匠であるデューラーと同じである。デューラーは知る人も多いと思うが、あの人の絵が北方ルネサンス後の正統な方向を決めたものだとすれば、このグリューネヴァルトはそこから