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急行「あかぎ」襟巻き事件。

まだ学生だった頃のことだから、今から40年近くの前の話。
東京と千葉の県境に近い新小岩というところで一人暮らしをしていた僕は、毎月月末になると実家のある群馬まで、翌月の生活費(仕送り)をもらいに帰っていた。上野駅発の急行あかぎに乗って。

11月末の金曜夜のことだったと思う。その日は大学の友人と話しこみ、ホームに着いたのが発車寸前となってしまった。当然、空いているボックスなどはなく、誰かの対面に座ることになる。できれば、静かな席に座りたい。と思っていると、女性が一人で座っている席が目に入った。ヴィトンのバッグを隣に置き、脚を組んでタバコを吸っている。当時は、まだ禁煙車などというものはなく、窓の下には灰皿が備えられていたのだ。目の前の女性は、ガキに毛の生えた程度の僕にはすごい大人に見えたが、実際は、僕より2〜3歳年上くらいだったろう。

僕も覚えたてのタバコを吸いながら、対面の人を意識しつつ、本などを読んでいた。上野を出発して45分くらい過ぎた頃、大宮駅を出たくらいだった。女性が紙袋の中からハンバーガーを取り出した。「夜の9時前だからお腹も空くよな」、と思っていたら、そのハンバーガーをちぎって、ヴィトンのバッグの上に置いている狸の襟巻きに差し出したのだ。そうしたら、なんとパクっと食べるではありませんか!! 狸の襟巻きが、である。エッ! とか声を出さずに済んで良かった。驚いているうちに、狸はマクドナルドのハンバーガー1個を平らげてしまったのです。

僕が、狸の襟巻きだと思っていたのは、実は犬だったという訳です。襟巻きという目で見ていたからなのかもしれないけど、本当にピクリとも動かなかったのですよ、ヤツは。

綺麗なお姉さんは、コートと狸じゃなくて、小さな犬の入ったバッグを抱え、高崎駅で降りていきました。ものすごくいい香りだけ残して。

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