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カルロ・ロヴェッリ「規則より思いやりが大事な場所で」を読んで

 この本は、購読している新聞の書評欄に載っていました。近隣の図書館にリクエストして購入してもらい、読みました。
 著名なイタリアの物理学者が、過去に新聞に載せた、いろいろな分野に渡る、たくさんのコラムを、年代順にまとめたものです。


物理学

 この本には、ブラックホールに関するコラムが、3つあります。
 私には難しく一番縁遠く感じていたので、読む順番を最後に回しました。
 しかし、読んでみると、意外に興味深いものでした。

 相対性理論を発展させると、理論上、ブラックホールが存在し、熱を放射していることがわかる。
 それを証明するために、宇宙を観察し、大型の装置で実験し、発見される
た。
 偶然に発見されるのではなく、物理学がその存在を気づき、計算・証明していく。

 人間が、科学的に検証したことを基に、壮大な宇宙の仕組みを理解していっていることを、改めて思いました。

科学者

 著者は、アリストテレス、コペルニクス、マリア・キュリー、アインシュタイン、スティーブン・ホーキング等、著名な科学者について語っています。
 私は、アインシュタインの章に、とても関心を持ちました。

 著者は、アインシュタインについて、以下のように述べている。
 彼が発表した相対性理論は、最初は、学会で認められなかった。
 彼の理論は、完成されたものでなく、新しい発想とたくさん深刻な間違いが入り混じったものであった。
 しかし、彼は、間違える勇気と自分の考えを変える勇気を常に持っていた。

 偉大な発見の着想は、突然空から降ってくるものではない。
 新しい発見(知識)は、現在の知識体系にある、矛盾や対立を解決する中に潜むという。
 偉大な科学者の存在が、いくらか身近に感じられます。

哲学

著者は、専門外の哲学に話が及びます。

 哲学者スピノザは、「身体と精神は異なる二つの実体ではない」と述べました。
 現代の脳科学者による実験で、人間に自由意志はなく、「自由な決定」の前に、一連の身体的な出来事の連鎖が準備されていることが、わかったのです。
 スピノザの哲学が、科学で証明された。

 その上で、著者は、無神論、宗教のあり方、愛情や苦しみからの解放、短い人生の美しさを語ります。

社会

 著者は社会に眼を向ける。

 アフリカで原始の暮らしをする部族と触れ合ったこと、アフリカ社会を歩き回ったこと、宗教について、国民性について、不平等の発生について、政治について。
 その記述範囲は極めて広い。

 私は、「国民性には毒がある」のコラムがとても印象に残りました。
このコラムに辿り着くまで、著者は、人類の歴史を総括し、神と宗教の存在、不平等を発生ついて語ります。
 そして、国家が国益が協働でなく衝突を助長するとき、国民性が毒になると論破します。国家主義に取りつかれた政治です。

 どれも短いにコラムですが、物理学者として、冷静な眼で、自分の考えを読者に伝えています。
 示唆に富む、素敵な本との出会いです。




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