中尾佐助「花と木の文化史」を読んで
この本は図書館でみつけました。岩波新書です。初版の発行は、1986年ですので40年近く前です。手元にあるのは第10刷です。読み継がれているだなと思い、借りました。
まず、花はなぜ美しいのかを問い、世界の花の歴史、日本の花の歴史、最後に、著者の選んだ10か所の景色をガイドしています。
著者が、日本人の花と木の文化がどのようなもので、他国と比べてどんな特徴があるかを、多方面から述べています。
私は、自分の生活の視点から、この本に書いてあることを、以下にまとめてみました。
私たちの庭
私は、地方都市で一軒屋に住んでいて、小さな庭があります。
平日であれば、夕方の5時頃に庭へ行き、花に水やりをしたり、雑草を取ったり、散ってしまった花弁を片付けりしています。散歩に出れば、隣近所の庭の様子が気になり、スーパーに行けば、園芸コーナーにも頻繁に顔を出します。
私にとって、庭に植物を植え、花を育るのは、日常的なことです。
著者は、国民全般が自宅で花や木を育てているのは、世界的に稀にみる、日本独特の成熟した文化である、と述べます。
本の中で、プラントハンターとして有名であったフォーチュンが、江戸に来て、下層階級の小庭に草花を植えこんでいる様子を見て、とてもビックリしたことを書いています。
故郷のイギリスでは、花卉文化は上流階級だけのものだったからです。
私は、NHKの世界街歩きという番組が好きでよく観ます。イタリア等の古都を訪ねるシリーズの時、道路は石畳と建物の壁は石で、市中には木や植物がほとんどないことに、違和感を覚えました。
しかし、貴族の屋敷の中に入ると、中庭に噴水があり、隣り合わせて、見事に咲き乱れた貴重な植物が、鉢に入れています。
著者が述べる通り、日本には、奥深い、花と木の文化があります。
ハナショウブ等の草本性植物の園芸化をしています、ツツジ、ヒバ等の造園用の灌木の品種改良が進んでいます。自然美を追求した盆栽があります。
植木屋、庭師のいった専門業者がいます。園芸を話題に、近隣同士で会話が進みます。
私たちは、そういう文化をもっと誇りに感じていいのだと思います。
私たちの愛する花と木
私の庭には、自宅を新築した時、ヤマボウシ、ヒメシャラ、ハナミズキを植えました。 庭には、シャクヤク5本、ボタン2本、バラ3本があり、今年は鮮やかな花をたくさん咲かせました。 花壇には、ユリ、スイセン、アネモネ、マーガレット、イベリスなど、いろいろな草花を植えています。どれも園芸店に行けば、購入することができます。
しかし、この本を読むと、今ここに育っている植物は、いろろいろな歴史を辿っていることがわかってきます。
中国で栽培が盛んだったのは、ボタン、シャクヤク、キクですが、圧倒的に樹木性のものが多かったようです。
西洋では、植物を建物の中庭という狭い空間に置くため、樹木性でなく、草本性の植物が栽培されてました。
その後、西洋では、イスラム文化との影響から、トルコからチューリップが入り、17世紀の絶対王政の時代に宮廷の庭を飾るため、バラが導入されました。
帝国主義の時代に入ると、プラントハンターが活躍し、世界各地から西欧に、たくさんの植物が持ち込まれます。バラは、今まで、西アジアからの品種が基幹でしたが、この時代に、四季咲き性の中国原産が栽培化されました。
あと忘れてはならないことで、新大陸のアステカから、コスモス、マリーゴールド等が運ばれました。今の花壇の主役達です。
私たちが日ごろ花壇で育てている植物は、世界中から日本に持ち込まれたものなのです。
私たちの住んでいる環境
自宅から少し歩くと、田園地帯があります。住宅街と田んぼの間には遊歩道もあります。そこでは、四季の野草を観察することができます。
今ですと、ハルジオン、ムラサキツユクサ、ヒメフウロを見かけました。足を伸ばせば、神社の近くに雑木林があり、涼しい環境の中で休むことをができます。
著者は、こういった環境は、国土面積の約60%をが森林である日本だからこそ許されるものであると述べます。
一般的に、身近にある雑木林は、原生林だったところを自然破壊した後に回復した二次林です。
そこには、松などの針葉樹もあれば、コナラ、クリ、クヌギの落葉樹があり、ヤマブキ、マンサクなどの灌木があり、ユリなどの草本性の植物が花を咲かせています。
日本の混合樹林は花の宝庫です。
中国では、都市に近いところには、日本のような山や林は残されていないそうです。
私たちが、散歩したり、近隣を里山を歩いて、自然を身近に感じることができるのは、日本のこういった環境があるからなのです。
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