小坂明子『あなた』とオイルショック時代の住宅ラッシュ(初出週刊アスキー「恋のDJナイト」)


 リーマンショックに揺れた2008年第4四半期の経済成長率は、オイルショック直後の`74年第1四半期以来の下げ幅を記録した。

 では、その35年前のオイルショック後の日本では、どんな曲が流行っていたか? この年の1月〜3月にかけてオリコンチャート1位を守り続けたのは、16歳でデビューした小坂明子の『あなた』で、計165万枚のヒットだった。

 この歌では、古い暖炉のある小さな家を建て、あなたと暮らしたかったという「願望」が歌われている。大きな家ではなく、「小さな家」であるという辺りに不景気の香りがしなくもないが、そもそも「家をたてる」の時点でさすがに不景気とは言えないだろう。

 この一軒家を夢見る少女の想いとは、この当時の時代意識に沿ったものでもあったと考えるべきだ。国土交通省の新設住宅着工戸数の推移を見ると、この年は前年比で28・5パーセント減と、過去最大の下落が生じていたが、その主な理由は、オイルショックに伴った具材の入手困難にあり、需要の低下とは言えなかったようだ。むしろ、その前年が戦後最大の着工戸数を記録した年でもあったように、この頃は新築住宅ラッシュ。多摩田園都市や多摩ニュータウンの開発が進み、人々が一軒家を求め、郊外に移住しはじめた時期である。着工数が下落した`74年度にしても、その水準はここ10年の住宅着工戸数をはるかに上回っている。

 こうした住宅ラッシュを象徴する歌には、加藤和彦の『家をつくるなら』もある。こちらは`72年のナショナル住宅(現パナホーム)のCMソングで「天体観測をする透明な屋根」など、男の子的な一軒家の願望が投影されており、暖炉を夢見る少女の願望を歌った小坂の歌と対になっているのが興味深い。

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