「ミレニアム(ドラゴン・タトゥーの女)」とポリティカルコレクトネスとセックス(初出:津田マガ「本を読まない津田大介に成り代わってブックレビュー」2012)

津田メルマガ読者の皆さん、2週間ぶりのごぶさたです。今回は、映画が公開中の『ドラゴンタトゥーの女』の原作『ミレニアム』シリーズの第1作です。昨年末(注:2011年のことです)、3部作すべてが文庫化されたばかりですね。

なぜこの作品、舞台がスウェーデン、著者がスウェーデン人です。スウェーデンと言えば、情報共有を政策として訴える海賊党が議席を持ち、また情報共有を信仰の対象とする宗教を国家が認定(“コピミズム伝道教会” http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B3%E3%83%94%E3%83%9F%E3%82%BA%E3%83%A0%E4%BC%9D%E9%81%93%E6%95%99%E4%BC%9A )するというお国柄の場所でもあり、ちょっと気になってます。そう、この小説、実は美少女ゴスロリハッカーが登場します。今回も後半はメディア論的に読み取ってみるということをやりたいと思います。

この作品、映画の予告からはわかりにくいかもしれませんが、第1部に限っては本格ミステリーです。ある財閥一族が住む島で、40年前に起きた消失事件の謎を解くというストーリー。島に住む財閥一族は、ナチスの信奉者やDV癖などがいる血塗られた一族です。そう、横溝正史的世界。僕が担当編集だったら『ミレニアム ドラゴンタトゥーの女』ではなく、『スウェーデン猟奇島』とか『スウェーデン坂の首くくり島』とか横溝チックな題名にしたと思います。

小説は未読という人でも、とにかく公開中のフィンチャーによる映画化版は観ておくべきでしょう。ラストの謎解き部分が原作と違い、ミステリとしてうまく成立しています。原作はそこが破綻しています。映画では、余計な部分もすべてカットされています。とはいえ、原作楽しみ方は別にあります。映画版がばっさり削ってしまった余計な部分にこそ、この小説のおもしろさや奇妙さが詰まっています。この小説の本質とは、ずばりうざい左翼性です。

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