帰ろうかな? と言われても(初出週刊アスキー「恋のDJナイト」)

 いわゆる「四畳半フォーク」は、若者の貧しい暮らしぶりが歌われる。代表はかぐや姫の『赤ちょうちん』だ。

♪赤ちょうちんに 誘われて おでんを沢山 買いました 月に一度の ぜいたくだけど お酒もちょっぴり 飲んだわね♪作詞:喜多条忠

 節約のためにお酒は月に一度。これは貧乏。`74年のヒット曲。かぐや姫には、『神田川』『妹』と四畳半三部作と呼ばれる作品群が存在する。その他のフォークにも、貧乏が描かれた。これほど貧乏がもてはやされたのは、`70年代くらいではないか。

 経済学者のクズネッツによると、工業化社会が進むと経済格差が拡大し、脱工業化が進んだ時代には縮小するという。アメリカでは、脱工業化し、サービス業が中心となった`50〜`60年代にミドル層が増え、格差が小さかった時代である。日本で脱工業化が進んだのは、`70年代のころ。多くの人々に中流意識が芽生え「一億層中流」と呼ばれた時代が`70年代だった。

 そんな時代に「四畳半フォーク」が生まれ、流行したのは、貧困自体がすでにフィクションになっていたからだ。貧しさが、すでにノスタルジーの対象となろうとしていたのだ。

 日本で格差が問題になり始めたのは`00年代半ばのこと。数値の見方によっては、格差は進行していないという説もあるが、工業化とは別の論理で格差が生じる時代になったのだ。勝ち組と呼ばれる富裕層が増え、アメリカ同様、ミドル層が貧困層に落ちていくという現象が見られるようになっている。

 社会の中にリアルに貧困が存在する時代にあっては、貧乏ソングは流行らないということだろう。

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