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ノンコンプライアンス。

治療のために入院しても、治療を拒み好き勝手にしている患者さんたちもたまーにいます。こういう人たちを「Non-compliant patients」呼ばわりするわたしたち医療従事者。どうしたら患者さんたちが良くなるための治療を受けてくれるかを考え、何がネックになっているのかをアセスメントするのが、わたしたち看護師たちの仕事って言われますが、人と場合によってはえらく時間がかかりますのよ。

たとえば、ジェイさん(仮名)。

ジェイさんはまだ30代前半。5年ほど前にがんであることがわかり化学療法を受けていたものの、最近再発。化学療法を受けるため入院したのだけど、両足ひざ下全面に大きな静脈性潰瘍があり、これが治るまで化学療法は受けられないと判断され。この潰瘍は2014年に化学療法を受けた後からずーっと治らないままになっていて、いったいいつになったら治療が受けられるのか、いつまで入院しなければならないのかと気が遠くなるようなプランが立てられていたのでした。

ジェイさんはヘロイン中毒者でホームレスでもあったので、入院生活自体は苦ではなかったようです。ときどきふらっと病棟を出ては外でマリファナを吸ったり薬を打ったりして病室に帰ってきていました。

ジェイさんは足のドレッシングを変えたりコンプレッションストッキングをはいたりすると痛みがコントロールできなくなるため、潰瘍は放ったらかしにしていました。メサドンという薬を使っていたため、処方できる痛み止めの薬が限られてたしね。処方されている抗生物質も、「抗生物質ホリデー中」などと言って拒否するわで、わたしたちスタッフもどうしたものかと考えていましたのよ。

そんなある日、TVN という皮膚ケア専門看護師Gさんが、ジェイさんを訪ね潰瘍をアセスメントする機会があったとき、ちょっと前進しました。というのも、ジェイさんが自分のことを語り始めたからです。

ジェイさんががんであることを告知される前の年に、彼のお母さんががんで他界。自分のがんは前回化学療法を受けたとき消えた(寛解した)と思っていたのに、今になって再発と言われショックを受けたものの、それも運命だと思ってもうどうでもいいと思っているということ。治療を受けてもどうせ自分は死ぬんだと思っていること。実は小さなお子さんがいるのだけど、自分の薬物中毒問題で会えないでいるということなど。短い時間だったけど、いろんなことを話してくれました。

本人の了解を取ってから、早速担当医師にこのことを伝え、病状や治療のことなどをもっと詳しくでも簡単な言葉で話してくれるようお願いしました。それと、Gさんが問題のない範囲で新たに痛み止めの薬を処方してくれたので、足のドレッシングの交換やストッキング着用も受け入れてくれることになりました。先生から話を聞いて、治療に前向きになってもくれました。婦長さんが然るべきところに連絡して、退院後のシェルターも用意できることになりました。

さてこれから、というところでわたしの担当セクションが変わってしまい、その後彼がどうなったのかはわかりませんが、今頃はきっと潰瘍がよくなってそろそろ化学療法を受けられるのではないかと思っているところです。

患者さんとのコミュニケーション、大事ですわね。

「ノンコンプライアント患者」とレッテルを貼ってしまうのは簡単だけど、どんな患者さんでもその人にベストなことをいっしょに考えていく姿勢は大切かなと思いますわ。


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ヨーコ

人生を最適化してくれるであろうことを体験したり学んだりすることに使わせてもらいます。使い道はnoteに書いて還元していきますね♥