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2022年の仕事

ここ数年取り組んでいたいくつかの仕事が2022年に公開されました.本業である大学の業務以外での仕事をここにまとめておきます.

『リアルタイムグラフィックスの数学』

2冊目,3年半ぶりの単著が何とか出版できました.詳しくはこちらにも書きましたが,前著『数学から創るジェネラティブアート』の続編的なものとして技術評論社さんから書かせてもらいました.この本で書いた乱数やノイズの話というのは,数学的な部分からちゃんと書こうと思うとなかなか大変で,簡単に書けるだろうと最初は軽く考えていたものの,思った以上にくたびれました.しかしながら,これをきっかけにCGの論文をまじめに読むようになり,実装力もついたように感じています.

笠覆寺改修事業に関する論文

私がジオメトリデザインのアドバイザとして一部関わっていた名古屋の笠覆寺の改修工事が完了し,そこで使われている数学についての論文をBridgesのショートペーパーとして発表しました.こちらは,私が北京にいたころから親交がある建築家の東福大輔さんにお誘いを受けたもので,デザインの原案モデル自体は2016年ごろにお渡ししていたのですが,紆余曲折を経てようやく完成しました.建築プロジェクトは,他のものづくりと比べて関わるお金や人足のスケールが大きく,なかなか大変な部分も多いのですが,実際に巨大な物体が目の前に現れるとその力はすごいですね.Bridgesは数学とアートに関する国際会議で,私が監訳に携わった『マス・アート』にも詳しく書かれています.

西陣織技術に関するデモ発表

2年ほど前に細尾古舘健さんとの共同プロジェクトで開発した織物技術を,デジタルファブリケーションの国際会議であるSymposium on Computational Fabricationのデモセッションで発表しました.コンピュータサイエンスのちゃんとした学会に出すのは初めてで,論文の書き方や発表の仕方などいろいろ勉強になりました.このアブストラクトの本編にあたる論文については,いつか近いうちに出せればなと思っています.

数学の論文

博士課程からつづく複素幾何学の研究については,ここ何年か取り組んでいた仕事がようやくアクセプトされました.中身について分かりやすく説明するのはなかなか難しいのですが(参考),考えていた色々な問題の謎の鍵が実はワイル群に隠されていたことが分かりました.

村山悟郎氏の織物作品への技術協力

村山悟郎さんが富士吉田テキスタイルウィークで発表した作品『頑強な情報帯』に技術協力しました.これまでセルオートマトンなど創発的システムを使った作品を制作してきた村山さんの新作で,ジャカード織機を使った織物作品です.この織物データを生成する変形型セルオートマトンプログラムを書きました.

「数理科学」の表紙画像制作

継続してやらせていただいているサイエンス社の月刊誌「数理科学」の表紙CGの仕事もこれで7年目に入りました.こちらは数学に関連したCGという大まかなテーマで,かなり自由な裁量でやらせてもらっています.毎月締め切りがある仕事というのはとてもありがたいもので,この仕事でかなりCG力が鍛えられました.シェーダ本を書いていた時期には,主にシェーダコーディングでグラフィックスを作っていたのですが,2022年からはTouchDesignerやHoudiniなどソフトウェアを(今さらながら)使いはじめました.

講演など

シェーダ本の内容に関連して,CEDECでチュートリアル発表をしました.また本の発売記念にFabCafe Tokyoでトークイベントを開催しました.WebGLでおなじみのdoxasさんのポッドキャストGLSLスクールでもお話をさせてもらいました.同志社大学理工学部川口ゼミや慶應大学SFC金沢ゼミのゲストスピーカーとして招待していただきました.

2023年の展望

細尾の織物プロジェクトで共同制作した作品が,春に京セラ美術館『跳躍するつくり手たち』で展示されます.このプロジェクト以降,コンピュテーショナルな手法を使ったテキスタイルには興味があり,今年から機械編みもかじり始めました.編み機は織機よりも機構が複雑で,まだ全然使いこなせていませんが,来年には何か形にできればと思っています.アートサイエンスのプロジェクトであるファンダメンタルズに関連して,絵画作家の山本雄基さんとの共作も進行中です.プライベートでは年末に子どもが生まれたので,来年はどれだけ動けるか読めないのですが,数学やCG,アートを中心に幅を広げて行けたらと思っています.


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