断面二次モーメントの感覚的理解
物体の曲げやすさ・曲げにくさを表す指標として断面二次モーメント$${I}$$がある。慣性モーメント(moment of inertia)とも表現されるが、土木工学の構造力学の分野では前者のように表現することが多いため、ここでは断面二次モーメントと呼ぶが、同じものである。慣性モーメントの方がイメージがつきやすいが。
例えばプラスチック定規を曲げる際に、下図のBのように薄い方向に曲げると曲がりやすく、Aのように太い方向すなわち幅方向に曲げると曲げにくいのは、断面二次モーメントが関係している。材料を曲げにくいように効率的に形作ることは、断面二次モーメントが大きくなるように断面形状を設定することと同じである。
下図のCとDで同じ体積の材料を使うときに、Cのように中心付近に集めるよりも、Dのように周囲に集めた方が、曲げにくくなる。ステンレス物干し竿が中空になっているのは、軽くて強い、という性能を確保するためである。
断面二次モーメントは曲げにくさを表す指標である。曲げやすさと言わないか?というと言わない。その数値が大きい方が、曲げにくいためである。断面二次モーメントの大きさが大きくなると、曲げにくさの程度が大きくなる、という表現と一致させるために、曲げやすさでなく、敢えて曲げにくさという。
計算式の定義はここでは示さないが、重心から遠い位置に面積があるほど、曲げにくくなる。距離の二乗で評価するため、少しでも遠い位置に面積を持つ方が曲げに対して有利となり、曲げにくくなる=曲げに強くなる。
同じ材料の体積(や断面積)を使う際に、重心から遠い位置に面積を増やした方が、その材料を曲げに対して効果的に使うことができる。
$$
断面二次モーメント=(面積×距離^2)の合計
$$
ここでの距離とは、曲げる方向に対する重心からの距離をいう。一般に重力による曲げは、上下方向の距離を考えればよい。このように距離の二乗であることから名称に二次がつくと理解して差し支えない。距離の一乗の断面一次モーメントというものも別にある。
代表的な図形の断面二次モーメント$${I}$$と断面積$${A}$$を下図に示した。$${π}$$とは円周率(3.14・・・)である。円と長方形の断面の断面二次モーメントは頻繁に使うので覚えてよくとよい。面積×距離の二乗と述べたが、面積は幅×高さであるため、結局、高さの3乗で効いてくるし、長さの4乗の次元をもつ。
円周率を$${3.14}$$として計算すると、半径$${5 \mathrm{mm}}$$の円の断面二次モーメントは$${490 \mathrm{mm}^4}$$となる。1辺$${10 \mathrm{mm}}$$の正方形の断面二次モーメントは$${833 \mathrm{mm}^4}$$となるが、断面積が違うもの同士を比較しているので、いまいちピンとこないだろう。
では、半径$${5\mathrm{mm}}$$の円と同じ断面積をもつ正方形の1辺の長さは $${8.86\mathrm{mm}}$$であり、その断面二次モーメントは$${514\mathrm{mm}^4}$$となり、円の$${490 \mathrm{mm}^4}$$よりも$${5\mathrm{%}}$$ほど大きくなる。最外縁までの距離は円の方が正方形よりも大きいが、重心から離れた部分の面積が正方形の方が大きいため、$${面積×距離^2}$$の計算により若干大きくなるためである。ただし、増加した量と、減少した量の足し合わせでたまたま増加して$${5\mathrm{%}}$$上回ったので、喩えとしてはわかりにくかったかもしれない。
図形3~図形5はそれぞれ断面積$${A_3=A_4=A_5=1400\mathrm{mm}^2}$$をもつが、形状が異なる。水平軸(x軸)に対して、図形3は長方形であり、図形4は高さを$${100\mathrm{mm}}$$に大きくしたものである。図5は高さを$${100\mathrm{mm}}$$にして距離が遠いところに面積を多く配分している。
それぞれの断面二次モーメントは次のようになる。計算方法の解説はここでは割愛する。
$$
I_3=\frac{bh^3}{12}=\frac{50×28^3}{12}=9.15×10^4\mathrm{mm}^4
$$
$$
I_4=\frac{14×100^3}{12}=1.17×10^6\mathrm{mm}^4
$$
$$
I_5=\frac{50×100^3}{12}-\frac{45×80^3}{12}=2.25×10^6\mathrm{mm}^4
$$
図形3との断面二次モーメントを比較すると、
$$
\frac{I_4}{I_3}=\frac{1.17×10^6}{9.15×10^4}=12.8
$$
$$
\frac{I_5}{I_3}=\frac{2.25×10^6}{9.15×10^4}=24.6
$$
同じ面積でも高さを高くするだけで断面二次モーメントを簡単に10倍以上に大きくすることができる。さらに、単に長方形で高くするよりも、I形のように遠く離れた位置に多くの面積を配置することが断面二次モーメントをより大きくすることに繋がる。図形5はI形断面とも呼ばれ、橋梁の桁でよく用いられる。曲げに対して有利な断面となっている。
今回はx軸に対して断面二次モーメントを高めるということに注力して断面を変更したが、x軸に対して直角の軸(y軸)に対しての断面二次モーメントは低下し、曲がりやすくなっていることに留意が必要である。別の形状にしてy軸方向の断面時にモーメントも同時に高めておくか、別途補強をしてy軸には曲げが加わらないようにする、等の対応が必要である。
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