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1月8日 地震と津波

原発事故と放射能汚染についての説明は前回で終わりました。今日は、それを引き起こした地震と津波について一般的な説明をします。

地震は地下で断層がずれて発生する

地震は地下でナマズが暴れるから起こると昔の人は考えていたようですが、いまは科学によって、地下の断層が動くことによって発生することがわかっています。爆発ではありません。ずれです。ずれが始まった場所を震源と言います。

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断層が動くと地震波が発生して、震源の近くは激しく揺すぶられます。地震波もふつうの波と同じように減衰しますから、遠くへ行くにしたがって揺れはしだいに弱くなります。揺れの強さは震度で表します。0から7まであります。0は無感です。ひとは感じなくて地震計だけが察知します。震度5と震度6にはそれぞれ強弱2段階がありますから、合計10段階で日本の震度は表現されます。震度階級は国によって違いますから国際間の比較はできません。昔は体感測定でしたが、いまは機械で測っています。

ひとつの地震の震度を各地で測れば、同心円的な地図を描くことができます。

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マグニチュードは、地震の大きさを表す量です。ひとつの地震にひとつの値が決まります。マグニチュードは地下で動いた断層の面積だと考えるのがよいです。1増えると10倍になる対数表示です。マグニチュードはインターナショナルだから外国の地震と直接比べることができます。

地下で動いた断層の広がりは、本震に引き続いて発生する余震が分布する領域で知ることができます。

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東海地方で想定されるマグニチュード5,6,7,そして8地震の大きさの違いは、下の図のように断層の面積でとらえることができます。1増えると面積が10倍になります。

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マグニチュード8を超えると、深さ方向への断層の広がりが制限されます。そのかわりに水平方向に広がるようになります。2011年3月11日の地震のマグニチュードは9.0でした。日本海溝に沿って500キロもの領域が地下でずれました。

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長い断層が動いて大きな地震が発生すると、しばらくしてその隣でまた大きな地震が発生することがよくあります。インドネシアのスマトラ島で2004年12月26日に起きたM9.1地震の3か月後、その南隣でM8.6地震が起こりました。2011年3月11日の地震のあともそのような地震が南北どちらかの隣りで発生するのではないかと(水面下で)心配されましたが、10年たとうとするいま、まだ起こっていません。

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震源の深さにも注目しましょう。何百キロも深いところで大きな地震が起きても、地表に被害は生じません。地表に届く前に地震波が十分に減衰してしまうからです。

異常震域という言葉があります。300キロも500キロも深いところで発生した地震波が、沈み込む(固い)プレートを伝わって地表に達して、震源の真上よりも大きな揺れを離れたところ(海溝の近く)に起こす現象です。

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緊急地震速報は、気象庁が2007年12月に実用化した警報システムです。テレビ画面やスマホで受け取った人もいるでしょう。速報を受け取ったあとに地震の揺れを感じますが、これは地震予知ではありません。地震が発生したことを地震波よりも早く、遠くにいるひとに伝達するシステムです。

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その性質上、震源のそばで甚大な被害を受ける人に緊急地震速報は役に立ちませんが、少し離れたところにいる人に役に立つ場合が考えられます。たとえば、高速移動している列車や車が緊急地震速報を受け取ってすぐブレーキを踏めば、安全に停止できることが見込まれます。

緊急地震速報は、P波をとらえてS波が来る前に速報するシステムだと説明する人がときどきいますが、それは間違いです。多数の地震計を張り巡らしたネットワークをあらかじめ用意しておいて、震源に近い地震計が地震波をとらえたらすぐさま地震波よりも早く遠くに情報伝達するシステムです。

P波をとらえて、S波による大きな揺れが来る前にエレベーターを最寄り階に停止させるシステムはずっと前からあります。P波センサーといいます。緊急地震速報は、それとはまったく別です。

津波はジェット機の速さ

津波は、海底で生じた段差がそのまま海面に転写されて、それが波として海面を伝わる現象です。

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段差は、ふつうは断層のずれが海底を変位させて生じます。陸上や海底の急斜面が崩れて大量の土砂が海底を移動しても起こります。津波は、地震がなくても発生することを知っておいてください。

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津波が伝播する速さは、重力と水深の積の平方根で決まります。太平洋の水深は4000メートルくらいですから、津波の速さは200m/sくらいになります。時速720キロです。これは新幹線ではなくジェット機の速さに相当します。太平洋の向こう側、チリで発生した津波は24時間くらいかかって日本に到達します。

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津波は、通常の海波とは違いますが、やはり波です。その特徴は、波長がとても長いことです。10キロから100キロに及びます。実感としては、サインカーブの波というより、大きな壁が襲ってくる感じです。

津波にはどうやっても勝てません。津波に飲まれたら助からないと思ってください。死因のほとんどは打撲です。溺れて死ぬのではありません。家と自動車といっしょに流れていくのですから、ほどなくぶつかったり挟まれてしまいます。

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石巻市立大川小学校は北上川のそばにありました。海から4キロ離れているから、ここまで津波が押し寄せて来るとは思っていなかったようです。しかし、上のドローン写真を見ればわかるように、この地点の北上川はほぼ海です。大川小学校の立地は海辺とほぼ等しいものでした。

大きな揺れを感じて校庭に集まって40分経過したあと、列を組んで北上川にかかる橋のたもと(三角地帯)に移動を始めたとき、津波が襲ってきて児童74人と教職員10人が飲み込まれて死亡しました。

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津波が残した堆積物の断面です。厚さ10センチほどで、成層した砂からなります。堆積物の特徴を調べて過去の津波と比較研究することができます。

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女川駅を上空からドローンで見ました。ひどい津波被害を受けましたが、新しい場所に駅舎が新設されて、港までのプロムナードは素敵な商店街に生まれ変わりました。

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石巻市街地にある日和山展望台の手すりには、地震前にここから撮影したカラー写真が掲げてあります。

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地震と火山の連動

2011年3月11日の地震のあと、東日本の火山が次々に噴火すると予言した人が複数いましたが(いまでもそう言い続けている人もいますが)、実際にはそうなりませんでした。

日本で毎年いくつの火山が噴火したかを、1991年から調べてみました。桜島と諏訪之瀬島(どちらも鹿児島県)は、毎年噴火しています。それ以外は、毎年3つくらい噴火していますが、2011年以降もその数は増えていません。

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噴火の規模をハイライトの色で区別しました。赤いほど大きい。西之島がやや大きいですが、小さな噴火ばかりです。2011年以降、噴火の規模が大きくなったとは言えません。西之島は東京の南1000キロも離れた洋上にありますから、2011年3月11日の地震と関係づけるのはむずかしい。

大きな地震のあとで近隣の火山で噴火が立て続くとした英語論文があります。M9.0の東日本地震のあと、これから火山噴火が頻発するとした予言の証拠としてしばしば持ち出されました。下は、それを朝日新聞が日本語で批判的に紹介した記事です。

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マグニチュード8.6以上の8つの地震のあとで近隣の火山噴火が増えたと論文は主張しています。たしかに地震後3日間(赤)と3年間(黄)の棒が立っています。しかし、朝日新聞が添えたように1950年以降の平均3年あたり(黒)と比較すると、とくに増えてはいません。

朝日新聞の批判記事の元のひとつになった須藤(2014)は、もっと巧妙な方法で英語論文の誤りを指摘しています。地震と火山地域の対応が太枠で囲った数字です。ここで数字を縦に見てください。地震番号1と2こそ太枠内の数字が大きいですが、地震番号3以降は太枠外の数字と変わりません。少なくとも、太枠内の数字が大きいとは言えません。地震が起きたあとに火山噴火が増えた事実はないということです。地震番号1と2は、インドネシア西部という火山噴火がよく起こる場所で起きた地震です。

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めざましい現象が発生すると、そこに注目が集まってよく報道されます。あたかも現象が増えたかのようにみえることがありますが、これは reporting index と言って、みかけの現象です。観測対象が増えたわけではありません。観測者の都合でそう見えるだけにすぎません。

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私たちは福島県の甲状腺検査でもみかけの増加を経験しました。そのときも説明しましたが、上のグラフは世界の火山噴火が年を追って増えていることを示しています。しかし、火山も増えています。観察者の目が増えたことによって火山噴火の報告が増えたことが明白です。火山噴火の消長を知りたいなら、自然現象の消長を知りたいなら、観察方法を同じにしないといけません。そうでないと、誤った結論を導き出してしまいます。

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