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鷲羽池-双六火山灰は、5センチの泥炭を挟んでアカホヤ火山灰の上にある。

2年前の9月に花見平の東端でみつけた露頭は、良好な状態でそのまま残っていた。2年前はここぞと思った2層準から試料採取したが、アカホヤ火山灰を確認するには至らなかった。今回再挑戦だ。

30万年前の火砕流堆積物の上に黒い泥炭層がある。氷期のあいだここは植生を欠く裸地で浸食の場だった。気候が暖かくなったおよそ1万年前から植生が着いて泥炭が堆積し始めた。泥炭の上にある褐色層は鷲羽池の噴火で降り積もった双六火山灰だ。上方に徐々に暗色化している。植生が戻っていまと同じような草原が成立したことによる。

今回の調査の目的は、7300年前に鬼界カルデラから飛来したアカホヤ火山灰を泥炭層の中からみつけることだ。

ねじり鎌の刃を置いた淡色の筋から試料採取した。露頭断面を広く観察したら、この淡色の層準だけに剥離構造があった。割れてた。泥炭の堆積中にこのときだけ異物が挟み込まれたようにみえた。

上層を除去してその地層面を出した。淡色部分だけを注意深く削り取って試料とした。

泥ではなく砂だ。指先の腹になすりつけて太陽光にさらすと、キラキラしている。

帰宅してから水洗いしてファーブル双眼顕微鏡を使ったら、バブルウォールガラスがたくさん見えた。接眼部にiPhone 11を押し当てて撮影した。この淡色の筋は、たしかにアカホヤ火山灰だ。下位の火砕流堆積物(30万年前)から舞い上がって堆積した新鮮な火山鉱物結晶も多く含まれるが、水を揺らして上手に選別するとバブルウォールガラスだけを集めることができる。

アカホヤ火山灰は、花見平で、鷲羽池-双六火山灰の下15センチにあることがわかった。厚さは2ミリ。両火山灰を隔てる15センチは黒い泥炭だけでなく混ざりものが多い。強風時に下位の火砕流堆積物から巻き上げられた火山灰粒子が堆積したのだろう。飛砂だ。黒い泥炭だけの厚さは半分の8センチか。

黒部五郎小舎の東端にも同様の露出がある。鷲羽池火山灰の下3センチから試料採取した。検鏡したらこれもバブルウォールガラスを含んでいた。アカホヤ火山灰だ。ここの泥炭は黒みが強くて混ざりものが少ないので薄い。下の写真は試料採取したあと撮影した。

双六火山灰とアカホヤ火山灰を隔てる泥炭の厚さは、花見平では8センチ、黒部五郎小舎では3センチだった。大角泰夫ら(1971、第3報第4報)は、5センチ程度だと報告している。

この厚さの泥炭が堆積するのにかかる時間は1000年ほどだ。アカホヤ噴火は7300年前だから鷲羽池-双六噴火は6300年前になる。この堆積速度の見積もりには誤差が大きいからひと桁だけ採用するのがよい。鷲羽池の噴火はいまから6000年前に起こった。2年前の見解を変更する必要はない。

(2023年8月29日現地観察、30日検鏡)


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