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5月29日 火山のかたち

火山には、複成火山と単成火山があります。

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複成火山は同じ場所から何回も噴火しますが、単成火山は一回噴火して終わりです。つまり、それまで火山でもなんでもなかったところから噴火が始まって、そこに火山がひとつでき上がります。

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富士山は全体としてひとつの複成火山です。山頂火口から噴火を繰り返したからこそ、その火口縁が一番高くなりました。山頂の南東側と北西側に小さなブツブツがたくさんあることに注目してください。これらひとつ一つが単成火山です。それぞれ一回の噴火でできました。できたあと、そこから再び噴火することはありません。単成火山は、ポツンとひとつだけ孤立して存在することはないです。必ず複数あります。地下の噴火したい気持ちは継続しているのですが、地表に出る場所が毎回違うということのようです。

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地蔵岳、鈴ヶ岳、鍋割山、小沼などです。登ったことありますか?

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富士山や赤城山などの親火山に付属する単成火山の群れを従属単成火山群といいます。ふつうはこれです。ここまでの話なら、複成火山と単成火山の区別にたいした意味はありません。重要なのはここからです。親火山を持たない単成火山の群れがときどきあります。それを独立単成火山群と言います。日本では、静岡県の伊豆半島東部、秋田県の男鹿半島、山口県の阿武地域(萩と津和野のあいだ)にあります。周りからぎゅうぎゅう押されてないで、むしろ引っ張られている(日本列島では)例外的な地域にできるようです。独立単成火山群は、地下のストレス場(テクトニクスという)を示しているから、その存在自体が興味深いのです。

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それでは、火山のかたちを説明しましょう。単成火山は小さくて整っていてわかりやすいので、まずはそれから説明します。マールとタフリング、スコリア丘、溶岩ドームの順に説明します。

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上昇してきたマグマが地表近くで水と接触すると激しい水蒸気爆発が起こります。地表にできた窪地が地下水面より低くて水がたまるとマール、地下水面より高いとタフリングと呼びます。タフリングの周りには噴出物が積もってドーナツ型の土手をつくります。写真は、ドイツのアイフェル・マールです。ドイツにも火山があるとは知らなかったでしょう。1万年前にできました。

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日本では、草津白根山の山頂域にある弓池が典型的なマールです。

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赤城山の小沼(この)は水が溜まっていますが、マールというよりむしろタフリングです。周囲をドーナツ状の土手が取り巻いています。地下水面が高いので水たまりができています。向こうに見える大沼(おの)は、山頂火口の中に地蔵岳が出現して残った窪地に水がたまったものです。噴火で積極的にできた地形ではありません。

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三宅島の1983年10月噴火で新澪池(しんみょういけ)にマールが生じました。そこから飛散した岩塊が一周道路のアスファルトの上に多数落ちました。マールは火山としては小ぶりだけど爆発力が強いので、噴火時に近くに寄ると危険です。

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ハワイ・オアフ島のホノルルにあるダイヤモンドヘッドはタフリングです。ワイキキから市営バスで簡単に行けますので、ハワイに行ったらぜひ半日を使ってハイキングに出かけてください。


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スコリア丘は、ストロンボリ式噴火がが長期間継続すると火口の周りにスコリアが積み重なってできます。

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いま溶岩を出し続けている西之島の中央にもスコリア丘が鎮座しています。溶岩は山頂火口からではなく、スコリア丘の麓から流れ出しています。スコリア丘は軽いから、重いマグマはわざわざ山頂火口まで上がってから流れ出すという悠長なことをしません。裾を破って流れ出します。

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2019年11月22日~2020年6月5日のSAR強度画像の比較(国土地理院)

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火口から飛び出したスコリアは、初めは火口から少し離れたところにもっともたくさん落ちて、ドーナツ状の高まりをつくります。やがて、高まりの傾斜が安息角を超えて、そこに崖錐(がいすい)が生じます。採石場で見られる円錐と同じです。スコリアが斜面を転がって大きくなります。崖錐斜面は直線的であることが一大特徴です。どこのスコリア丘も崖錐斜面の傾斜は30度くらいです。

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崖錐斜面は尾を引きません。ストンと断ち切れています。米塚の直径は400メートル。スコリア丘としては小ぶりなほうです。扉写真に掲げた伊豆半島の大室山は直径1000メートルある大型スコリア丘です。

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阿蘇の米塚が、森ではなくススキに覆われたやわらかい景観なのは、毎春に火入れをするからです。この柔らかい景観は自然ではなく人為の結果です。

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火入れした数日後に米塚を訪れました。ススキが焦げて米塚は真っ黒でした。

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伊豆半島の大室山でも火入れをします。2月か3月の日曜日に行う火入れは、観光行事となっています。

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スコリア丘の内部が採石によって露出すると、スコリアが赤いことがわかります。高温のまま閉じ込められたスコリアとスコリアの間を酸素を含んだ空気が循環してよく酸化するからです。表面のスコリアだけは効果的に冷却されて黒くなります。できたばかりの西之島のスコリア丘の表面は黒く見えます。ハレアカラ火口内のスコリア丘が赤いのは、表面にあった黒いスコリアが強風で吹き飛ばされてしまったからです。


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溶岩ドームは、火道を上昇してきた溶岩がそのまま固まったものです。急傾斜で盛り上がりますから、これも周囲を崖錐斜面が取り巻きます。

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榛名湖は、5万2000年前に火砕流が拡大した火口の中に雨水がたまってできたました。南北 2 キロ、東西 3 キロの楕円形火口の東半分を占める榛名富士は3万5000年前にできた溶岩ドームです。崖錐斜面がぐるりと取り巻いていてスコリア丘のように見えますが、頂部に火口はなく溶岩が露出しています。浅間山の軽石や赤土に厚く覆われているため深いガリーが切り込んでいます。背後の雪山が浅間山です。

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二ッ岳は1500年前に出現した溶岩ドームです。伊香保軽石を噴出した火道を上昇してきて盛り上がりました。浅間山からの軽石に覆われていませんから地形が新鮮です。右下のオンマ谷は埋めきれなかった火口です。中景右は9500年前に出現した水沢山溶岩ドーム。中景左は伊香保温泉街。遠くは子持山と赤城山です。

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軽井沢駅のそばにある離山(はなれやま)は、2万2050年前に上昇してきた溶岩ドームです。遠くに見える小浅間山は、その1250年後に上昇してきた溶岩ドームです。浅間山の噴火は山頂から起こるのが常ですが、2万年前のこの2回だけは山腹から噴火しました。どちらも最初は軽石を出しました(雲場熱雲と白糸軽石)。

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1980年5月18日に崩壊したセントへレンズの火口内には、すぐに溶岩ドームが出現しました。この写真は16年後の1996年に登山して撮影したものです。その8年後、溶岩ドームの上昇が再びあって、大きさが2倍になりました。

2004年から2008年までの溶岩ドーム上昇を1分26秒のタイムラップス動画にしたものです。突き出しては崩れ、突き出しては崩れを何度も繰り返しました。幸いなことに熱雲は出ませんでした。


複成火山の説明に移ります。

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大きな円錐形をした複成火山を大円錐火山と言うことにします。成層火山という語もありますが、火山はどれも多かれ少なかれ成層しているので、それを特定の火山のかたちを規定する語として使うのは好ましくありません。

富士山が大円錐火山の典型です。富士山は3776メートルありますが、上げ底です。右上の山中湖から見た写真にあるように、両側に肩があります。五合目です。ここまで車で行けます。五合目の標高は2200メートルくらいですから、富士山はその上に1500メートルだけ積み上がってできました。

浅間山も、赤城山も、榛名山も、大円錐火山です。浅間山は2568メートルですが、軽井沢の標高1000メートルからやはり1500メートル積み上がってできました。大円錐火山は、日本列島だけでなく、カスケード山脈でも、アンデス山脈でも、世界中どこでも、土台の上に1500メートルほど積み上がってできています。それ以上は高くなれないようです。高くなろうとすると山体崩壊してしまいます。

左下の写真は鹿児島県の開聞岳(かいもんだけ)です。中くらいの大きさの(中途半端な)火山です。これはちょっと大円錐火山とは言いにくい。地質学一般がそうですが、火山の分類は生物種の分類のようには一刀両断にできないことがあります。その場合は、極端な(あるいは典型的な)単成分を認識するという手法を採用します。開聞岳は大円錐火山の成分が40%くらいです。

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北西側、本栖湖(もとすこ)から見た富士山です。富士山は北西-南東方向に伸びた楕円をしています。その方向に押されているからです。この写真はその押されている方向を見ています。左右で傾斜がずいぶん違います。なぜ違うのでしょうか。考えてみてください。


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ダイクは、地下の割れ目をマグマが満たしたものです。ダイクと地表の交線が噴火割れ目に当たります。マグマは、ダイクの中を水平に移動します。上に進むとわざわざ余計な仕事をすることになりますから、そういう馬鹿な真似をマグマはしません。

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富士山の宝永火口の壁に露出するダイクの群れです。十二薬師岩といいます。1707年噴火口がここに開いて火口壁が拡大したときに柔らかい部分が浸食されて露出しました。

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榛名山掃部ヶ岳(かもんがたけ)のダイクです。遠方の雪山は浅間山です。周りにあった柔らかい地層が長い時間をかけた浸食で失われたためにダイクが壁のようにそそり立っています。

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オレゴン州クレータレイクのカルデラ壁に露出したデビルズバックボーンです。とても立派なダイクです。クレーターレイクはたいへん辺鄙なところにありますが、何時間もドライブしてわざわざ行く甲斐があるとても美しい国立公園です。テントを持って行ってキャンプするのを強く勧めます。7月上旬でも道端に積雪がまだあります。ここの夏は短いので行ける時期は限られます。


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上毛かるたに「裾野は長し赤城山」とうたわれている赤城山の大きな裾野は火砕流と土石なだれと土石流からつくられています。ピンクに着色した旧大胡町部分が火砕流です。その両側のパープルが土石なだれです。それら以外の水色が土石流です。土石流は何度も繰り返して扇状地をつくりました。気候が寒冷だった氷期は山に緑が少なくて、少しの雨でも土石流が出ました。そうやって、関東平野まで伸びる赤城山の優美な長い裾野ができました。


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太平洋上に浮かぶハワイ諸島やガラパゴス諸島は、大きな盾状(たてじょう)火山です。西洋の盾を伏せたかたちてわかりますか?要するにかまぼこ型です。上に凸だから、麓から山頂が見えません。盾状火山は、溶岩流の章で説明した溶岩洞窟システムによって大きな図体になります。

日本では、長野県の霧ヶ峰や岩手県の八幡平などで、高所に広い平坦面をもつ溶岩が分布しています。これらはハワイやガラパゴスと比べるとずっと小さいので盾状火山に入れないひとと、大きさの違いは度外視してかたちだけを見て入れるひとがいます。流派によります。

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ハワイの盾状火山にはリフトゾーンと呼ばれる背骨が特徴的に見られます。ひとつの火山に3方向か2方向のリフトゾーンがあります。リフトゾーンの地表には火口やスコリア丘が列をなします。地下にはダイクが密集しています。


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10立方キロを超えるくらい大量のマグマが地下から一気に噴き出すと、地表が陥没して大きな窪地ができます。これをカルデラと言います。へこんでいても火山です。日本語としては奇妙ですが、英語のvolcanoはギリシャ神話のブルカンという鍛冶屋の神様に由来していて山の意味がありませんから、奇妙ではありません。

大量のマグマは火砕流として噴出しますから、カルデラの周りには例外なく火砕流台地が広がっています。

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噴煙を上げる阿蘇中岳と阿蘇カルデラ内牧温泉の湾入です。湾入はカルデラ陥没のあと、長い時間かけた浸食でできました。阿蘇カルデラの中にはたくさんの街があって大勢の人が住んでいます。鉄道の駅も複数あります。

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日本のカルデラは、北海道と九州に偏在しています。過去10万年に6個くらいできました。複数回の火砕流噴火を経験したカルデラも多いですから、日本列島では1万年に1回くらいの頻度でカルデラ破局噴火が起こると思ってよいです。最後のカルデラ破局噴火は、九州島の南にある鬼界カルデラで7300年前に起こりました。カルデラは海中に没していて、縁に当たるところに島が二つあります(竹島と薩摩硫黄島)。


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100万立方キロを超える玄武岩マグマが地表にじゃあじゃあと流れ出したことが、地球史上で何回かあります。洪水玄武岩と言います。100立方キロではありません。100立方キロです。4桁違います。日本列島における第四紀火山活動をはるかに凌駕する量です。

上の写真は、1700万年前にワシントン州東部に広がったコロンビア川洪水玄武岩です。前回の氷期の終わるときに何度も起こった氷河洪水に洗われて表土がはぎとられて露出しました。この地域の地質物語は1700万年前と1万年前の2回あります。

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地球上の洪水玄武岩の分布です。インドのデカン高原は6600万年前につくられました。恐竜が絶滅した原因は、いま隕石衝突説が有力ですが、デカン高原をつくった洪水玄武岩のせいかもしれません。タイミングはぴったり合います。

月に黒いうさぎのかたちがみえます。低所に広がった玄武岩溶岩に当たります。海です。新しい表面です。いっぽう白く輝いている部分は高所です。古い高地だから隕石に打たれて粉砕されて太陽光をよく反射する粒子からなっています。月に見えるうさぎのかたちは、洪水玄武岩がつくりました。2億年前の話です。


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