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5月15日 火山噴火と噴出物

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地下を断ち割ってマグマを見た人はいませんが、想像すると下図のようになっていると思われます。

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マグマが噴出する前には、地震が起こったり、地表が隆起したり、噴気が盛んになったりすることがあります。ただし、これらの異常がいつも噴火前にあらわれるわけではありません。異常ないまま突然噴火に至ることもあります。草津白根山の2018年1月23日噴火がそうでした。

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水が水蒸気になると体積が何倍になるか知っていますか?

1700倍になります。水分子と水分子の間の距離が約10倍に広がります。この急激な体積膨張で発生した圧力によってマグマを貯めていた容器が破壊されて爆発的噴火が起こります。

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火山から立ち上がる噴煙柱は三つの領域からなります。下から、ガス推進域、対流域、かさ型域です。

ガス推進域で、噴出物は爆発によって得た初速で上昇します。しかし地球の重力は強いですから、どんなに大きな初速で出発しても2から3キロ上昇すると急激に減速します。つまり噴煙柱のうちジェットで上昇しているのは基部のほんのわずかな部分です。ときには、噴出物が火口縁に届いた時点でジェットによる上昇はなくなっています。

重力に引かれて減速したとき、噴煙の密度がその高さの大気の密度より小さければ浮力が発生します。多くの場合、これが成り立ちますから、噴煙は浮力によってそのまま上昇を続けます。噴煙がもくもくと見えるのはこのためです。夏の入道雲と同じメカニズムです。対流です。地球に大気があるからです。大気のない月の表面で爆発的噴火が起こっても噴煙柱はできません。

減速したとき、噴煙の密度が大気の密度より大きかった場合はどうなるでしょうか。そうです。地面に落下して、火砕流や熱雲になって山肌を下ります。

噴煙が上昇を続けると、やがて大気の密度と同じになります(上図をもう一度見てください)。そこではもう浮力が発生しませんが、噴煙の速度はまだゼロにはなっていません。慣性力によって、噴煙は上方向だけでなく水平方向にも東西南北に広がって大きなキノコ雲になります。

噴煙は、桜島で毎週のように起きている爆発で2から4キロくらいまで上昇します。大きな噴火だと、10キロを超えて、対流圏を突き抜けて成層圏に届きます。浅間山の1783年噴火くらいだと、20から30キロまで届いたと考えられます。

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国際宇宙ステーションからみた千島列島の火山島の噴煙です。頂部で傘が開いています。噴煙に押し上げられた空気中の水分が凝固して白く輝く雲ができています。噴煙の基部では火砕流が流れ下っています。厚い雲を破ってこの火山島の上だけぽっかりと穴が開いたのは、宇宙飛行士の野口さんにこの写真を撮らせるためだったのでしょうか。

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爆発的噴火には、いくつかのタイプが認められます。固有名詞で類型化されています。

ブルカノ式は、ドンの噴火です。桜島や浅間山でよく起こります。火山の上に入道雲のような噴煙が立ち上がります。一回で終わることなく、時間をおいて何回も起こることが普通です。ブルカノは、地中海にあるイタリアの火山島の名前です。

プリニー式は、マグマの噴出が何時間も何日も続く噴火です。噴煙柱は成層圏に達します。桜島では1914年1月に、浅間山では1783年8月に起こりました。プリニーは、イタリア・ポンペイを埋めたベスビウス火山の79年噴火を記録した小プリニーにちなみます。

ストロンボリ式は、マグマのしぶきを何か月も吐き出し続けて火口の周りにスコリア丘をつくる噴火です。西之島では、2013年11月に始まって、何か月かの休止を挟んでまだ続いています。ストロンボリは、ブルカノ島の近くにあるイタリアの火山島の名前です。夜間はマグマのしぶきが赤く輝くので、地中海の灯台と呼ばれています。

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ドンで終わるブルカノ式爆発の噴煙柱は、上昇時間より供給時間が短いサーマルです。夏の入道雲と同じです。

(57秒)
桜島のブルカノ式爆発の動画です。モクモクと上昇する噴煙の中から火山弾が飛び出します。ナレーションは噴石と言いますが、火山弾と呼ぶのがよいです。

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夜間のブルカノ式爆発を長時間露出で撮影すると、このように真っ赤な火山弾が放物軌道を描いて空中を飛行しているのがわかります。放物軌道が太くなったり細くなったり、ときにはとぎれとぎれなのは、火山弾が回転していて赤い断面が見えたり見えなかったりするからです。条件がよいと螺旋(らせん)が見える写真もあります。地表に衝突した火山弾が割れて飛び散っています。

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供給時間が短いサーマルだから、ブルカノ式噴煙は火山からすぐに離れます。左に傾いているのは上空ほど風が強いからです。噴煙の下に火山灰が降っています。左から右に(火山の遠くから近くに向かって)火山灰の筋ができていますが、火山灰粒子自体は右から左に降っています。てっぺんが平らで、一定高度から上には上昇できなくなっているのもおもしろい。

プルーム (plume)

いっぽう、ストロンボリ式とプリニー式の噴煙柱は、供給時間が上昇時間より長いプルームです。線香の煙と同じです。

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伊豆大島の1986年11月噴火は、三原山火口内からストロンボリ式噴火で始まりました。この噴火は6日のあいだ定常的に続きましたが、21日16時15分、突然カルデラ床に噴火割れ目が走って、そこからプリニー式噴煙柱が立ち上がりました。

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元町港を離れて伊豆半島に向かう船上から撮影されたプリニー式噴煙柱です。この噴煙は高度16キロまで上昇して2時間ほど継続しました。もっとも小さな部類のプリニー式噴火でした。

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噴出するマグマが地表水とダイナミックに接触すると、大量の水が気化して激しい水蒸気爆発が起こります。明神礁の1952年噴火で観察された噴煙です。鶏のしっぽのように見えます。コックステイルジェットと言います。この火山の1952年9月24日噴火で海上保安庁の観測船第五海洋丸が遭難して乗組員31人全員が死亡しました。

この遭難のあと、アイスランドのスルツェイ島で1963年に同様の噴火が観察され、この噴火様式はスルツェイ式と呼ばれるようになりました。

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スルツェイ式噴火では、ベースサージが発生します。ビキニ水爆実験で発生したベースサージをご覧ください。水煙の輪が水面を広がっていきます。明神礁で遭難した第五海洋丸は、このようなベースサージに飲み込まれて沈没したのでしょう。

火山噴出物

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火山噴火による噴出物は、そのサイズだけによって上のように分類されます。64ミリより大きい粒子は火山岩塊、それより小さくて2ミリまでの粒子は火山礫(れき)、2ミリよりも細かい粒子は火山灰です。火山灰は、火山砂と火山シルトと火山粘土に分けられます。

火山岩塊は、空気抵抗をものともせずに放物線を描いて空中を飛行します。火山礫と火山砂は、空気抵抗によってそれぞれのサイズに応じた終速度を獲得して落下します。雨粒と同じです。火山シルトと火山粘土は、単独で空中を落下することはせず、凝集して落下します。

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浅間山の2004年9月噴火で放出された火山岩塊と火山礫。

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初速150m/sで投げ出された火山岩塊と火山礫が、サイズによってどのような軌道を描くかシミュレーションしてみました。12センチより大きい火山岩塊は放物線に近い軌道を描きます。6センチより小さい火山礫は空気抵抗に負けて直線的に、そしてずいぶん手前に落下します。

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火山灰は、マグマが冷えた粒子と噴火に巻き込まれた粒子からなります。マグマ噴出量が多ければ多いほど、マグマ粒子の割合が増します。

火山灰より火山礫のことが多いですが、マグマが冷え固まってできた粒子のうち発泡しているものを軽石と呼びます。爆発的噴火でたくさんのマグマが一度に出ると、よく発泡して軽石になります。その色が黒いときはスコリアと呼びます。

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火山灰中の結晶は、爆発せずにそのまま冷えて溶岩になっていたら、斑晶になったはずの部分です。火山灰中の軽石とガラスは、石基になったはずの部分です。

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浅間山を歩いていたら出くわしました。この穴は何でしょう?噴火で山頂火口から飛んできた火山弾が地表に衝突してつくったクレーターでしょうか。いや、最近の浅間山はそのような噴火をとんとしていませんが。

これは、イノシシが掘った穴だと思います。火山を歩いて観察するとき、あなたの目の前に現れるのは火山のしわざだけではありません。自然のすべての営みに遭遇することになります。火山を調べたいときは、そういうノイズを除去して火山を考える必要があります。火山だけを知っていたのでは、火山を理解することができません。

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浅間山の2004年9月1日噴火で火山弾が地表に衝突してつくったクレーターです。直径10メートルほどあります。左下のクレーターが山火事を起こしました。インパクターになった直径80センチの火山弾がクレータ内に残っています。右下は古いクレーターです。クレーターの中に緑の草が生えていることからわかります。

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湯ノ平にある直径12メートルの大きなクレーターです。千トン岩を火口北縁に鎮座させた1950年9月23日の爆発でつくられました。

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地表に着弾したあとで内部が発泡して膨らんだために表面にひびがはいった火山弾があります。パン皮火山弾と言います。

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紡錘火山弾は伊豆大島1986年11月、パン皮火山弾は草津白根山、牛糞火山弾は三宅島1983年10月です。紡錘火山弾の中にも、球形火山弾と同じように、核が入っていると思われます。

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火山豆石やペレーの毛と呼ばれる特殊な粒子も火山噴火でつくられます。上の小さな火山豆石は、ハワイ・キラウエア火山の1790年噴火。その下の大きな火山豆石は、南九州のシラス火砕流の中から拾い出したもの。左下のペレーの毛はキラウエア火山です。ハワイはアメリカだから金髪です。

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