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11月27日(1)グラフと図解

自分の考えを他者に伝えるときには言語を用いるのが一般的ですが、グラフや図解を添えると、とくに数量的把握は、迅速かつ正確に他者に考えを伝えることができます。この目的でグラフや図解をつくるときの注意点をまとめます。

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円を中心からいくつかに分割したパイグラフは、全体に占める各要素の割合を示すときによく使われます。しかし上のテレビ画面では、中心点をずらして10-20代の97人が他を圧倒的にしのいでいるようにみせかけています。このような不当表示をしてはなりません。いっぺんで信用をなくします。

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「20%以上削減」を印象的に見せようとして、縦軸を70%で切っています。半分以下に激減しているかのように見えます。比率を議論するときは、下限をかならず0%にして、減った量を読者が正しく実感できるようにしましょう。

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これも、縦軸に問題があります。目盛りは20万人刻みですが、260万人から320万人のあいだだけを表示しています。下限を0にしてその上に波線を入れて省略したことを示しているのはいささか良心的ですが、すべての棒グラフにも波線を入れて省略したことを明記すべきです。

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これも同様です。棒グラフの下に切れ目を入れるべきです。変化の様子を詳しく見せたいなら、棒グラフではなく折れ線グラフまたは点グラフを使いましょう。

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棒グラフのこうした不適切な使い方は、テレビや新聞がいつもやっています。今年(2020年)9月にも見ました。80%から100%のところだけ拡大して、日本の「そう思う」が3~4倍であることを強調しています。「そう思わない」が圧倒的多数であることは、日本も欧米も変わりないのですがね。

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池上彰さんの番組でも2016年12月によくない表現がありました。日本とアメリカを比較して、赤で示した下位層所得が日本では下がり続けていると説明しています(上半分)。しかし縦軸のスケールをよく見てください。左右のグラフで大きく違います。縦軸スケールを同じにして比べると(下半分)、日本の下がり方がアメリカと大差ないことがわかります。

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これは、国土交通省が作成したグラフです。平安時代からいまに至る日本の人口変化を示しています。横軸を見てください。最初は200年刻みで始まりますが、途中から50年刻みになっています。200年おきに赤丸を付けました。スペースには限りがありますから、こういう表現が必要になることは理解できます。でも、そのときは、グラフの線と横軸にも波線を入れるべきです。あるいは、1600年と1650年の間に切れ目を入れるべきです。

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これは、プロのグラフィックデザイナによる図解です。NHK Eテレのサイトによい10分ビデオがあって、何年もそれを授業で再生していたのですが、昨年公開が終わってしまったため、ビデオはお見せできません。

左は、2050年になるとインドの人口が中国を追い抜くことを示した図解です。単純な棒グラフではなく、中国人の前にインド人が出てくる表現をしています。これはたいへんわかりやすい。

右は、新幹線の最高速度が年々上がってきたことを示す図解です。速度の伸びがそれほどないので遠近法を使って表現しています。この表現方法はデザインとしてはすばらしいですが、学術的には疑問です。

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今年(2020年)台風14号の予想進路図です。上の図では東京に12日3時に来るように見えます。しかし、下の図では11日3時に来ると正しくわかります。図をつくるときは、ラベルを貼る位置にも気をつけましょう。

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下の図は、2017年2月の朝日新聞に掲載された図ですが、大きな間違いがあります。

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わかりましたか?GPS端末から人工衛星へ赤矢印が伸びていますが、その方向への情報の流れはいっさいありません。GPS端末が人工衛星からの電波を受信します。赤矢印の向きが逆です。人工衛星から警察への情報の流れも直接にはありません。あいだに基地局を置くべきです。

全国紙の記者が、取材内容を正しく理解することなく記事を出稿したことが露呈しました。デスクもそれを見逃してしまいました。グラフと図解をつくるときは表現を正しく工夫することが必要ですが、それ以前に内容を正しく理解していなければなりません。

問題

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上のグラフは、Financial Timesのページから昨日(11月26日)切り取ったものです。各国のコロナ感染者数の変化を示しています。一見すると縦軸が対数目盛のようですが、よく見ると違います。対数目盛だとするとおかしい点を指摘しなさい。解答はMoodleのフィードバックに書き込みなさい。

縦軸を対数目盛からゆがめてもよいのですが、それを対数目盛(logarithmic scale)と表示してはいけません。

(今日の記事はもうひとつあります)

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