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7月3日 来たるべき噴火に備える

今日から3回に分けて噴火予知の話をします。命を助けるための短期予知は来週と再来週の2回します。その前に、もっと長いスパンの長期予知について今日話します。土地利用や都市計画、そして市役所・学校・病院などの施設配置に影響を及ぼします。

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過去の火山災害による死者数を全世界で見てみましょう。もっとも多くの死者が出たのは、インドネシアのタンボラ火山の1815年噴火です。あの「夏のない年」を出現させた噴火です。9万2000人が死亡したとされますが、9割は餓死者です。噴火による直接死は1万人程度だったでしょう。

次に多いのは、これもインドネシアで、クラカタウ火山の1883年噴火です。カルデラ陥没を伴う火砕流が発生させた津波で3万6000人が死亡しました。クラカタウ火山では、2018年12月22日にも、成長中のスコリア丘が大きく崩壊して発生させた津波で447人が死亡しました。

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三番目に多いのは、西インド諸島モンプレー火山から1902年5月に発生した熱雲でサンピエール市など2万9000人が焼き殺された噴火です。これが、噴火現象そのもので人がもっとも多く死亡した事例です。

四番目は、コロンビアのネバドデルルイス火山の1985年11月のラハール災害です。ネバドデルルイスはアンデス山脈の上にのった高い火山だから、山頂火口に氷河があります。その氷河を融かして発生したラハールが川を一気に下ってアルメロ市を襲い、2万2000人が死亡しました。

五番目は、日本の雲仙岳です。1792年5月21日に眉山が崩壊して有明海に津波を起こして1万5000人が死亡しました。島原大変肥後迷惑としてよく知られています。雲仙岳ではその年の春から新焼溶岩が流れ出していましたが、眉山を崩壊させたのは地震です。噴火ではありません。これは本当は地震災害なのですが、火山災害に含めるのが通例なので含めました。

そのあとには、インドネシア、アイスランド、イタリア、そしてパプアニューギアの火山災害が続きます。死因は、餓死・津波・熱雲・ラハール・土石なだれです。溶岩で大勢の人が死ぬことはありません。火砕流で大勢の人が死んだことは、記録上まだありません。

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日本に目を移しましょう。一番は、すでに述べた1792年雲仙岳の1万5000人です。二番は、1741年の渡島大島(北海道)の3000人です。これも山体崩壊と津波による死者です。三番は、1783年浅間山の1490人。これは、鬼押出し溶岩の先端から発生した土石なだれです。三番まで18世紀です。

このあとは、北海道駒ヶ岳1640年、磐梯山1888年、那須岳1410年と続きます。死因は山体崩壊とそれに伴った津波が多い。青ヶ島と伊豆鳥島は、火山島の噴火でした。火山島は狭いから、噴火が始まると逃げ場がありません。両方とも痛ましい全滅事例です。

この表には掲げませんでしたが、慶長三年四月八日(1598年5月13日)に浅間山の山頂で800人が死亡したと『当代記』に書いてあります。浅間山頂で800人死亡するのはあり得ないと昔の私は思っていましたが、御嶽山の2014年9月27日噴火を見て、そうとも言えないと思い直しました。1598年には釜山スコリア丘がまだありませんでした。当時は前掛火口内に大きな広場があったと考えられます。四月八日は浅間山の山開きの日です。山開きを祝ってその広場まで登山した大勢が突然の噴火に遭遇して、降り注ぐ多数の火山れきにあたって800人死亡したのは、ありうる話です。

このように、火山の噴火では千の単位で人が死にますが、地震と比べると桁違いに少ない。地震は万の単位で人が死にます。そして噴火はめったに起きません。このため日本国では、地震防災が優先されて、火山防災は二の次になっています。人員も予算も、地震のほうがはるかに多い。

さて、火山のリスクはいったいどれほどなのかを評価してみましょう。リスクは、単独で評価するものではありません。すべてのリスクの中で相対的に評価することが肝要です。人は、自然災害だけで死ぬのではありません。事故でも死にます。多くは病気で死にます。老衰と自殺もあります。

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不慮の事故で死亡する確率を見てみましょう。日本では、山で毎年200人余りが遭難死します。川では400人が死亡します。海では600人が死亡します。山より水のほうが怖いのです。夏の日曜日、全国の海水浴場で死亡した人の数がテレビニュースで報道されます。海水浴は、死にやすいとても危険なレジャーです。

山川海よりもっと危険なのは交通事故です。1995年の交通事故死者は1万5147人でした。その後、飲酒運転の厳罰化などの取り組みをした効果があって、昨年2019年は3215人まで減少しました。5分の1になったわけです。それでも、山川海の事故の倍以上です。いまの日本社会において、不慮の事故の過半は交通事故です。

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自然災害のリスクを評価するときは、交通事故のリスクと比較すると有効です。実感しやすい。

日本の人口1億2000万人のうち、毎年4000人が交通事故で死亡します。3万人の集団があったら、毎年1人が死亡するわけです。人口30万人の前橋市だと、毎年10人が交通事故で死亡します。

ここで頭を切り替えてください。人は3万年生きると、交通事故で1回死亡します。交通事故死は減らすように社会として取り組むべき重大な加害要因ですから、火山も3万年に1回以上発生する噴火の被害は軽減するよう取り組むのが、適当なようにみえます。

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交通事故以外の死亡リスクも見てみましょう。年間死亡リスクを下に掲げます。まずわかるのは、年齢がもっとも重要なファクターだということです。90歳の年間死亡リスクは1/5です。90歳のひと5人がここにいれば、1年後には4人になります。冷酷な現実です。みなさんくらいの20歳の年間死亡リスクは1/1000です。若い人は病気になりにくいからです。

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職業としては、ヘリコプターパイロットがもっとも危険です。170人にひとりが毎年死んでいます。ヘリコプターは、そもそも空を飛んでるほうがおかしい。ハワイのキラウエア火山が毎日噴火していたとき、噴火で死亡したのは35年間で2回、新しくできた溶岩棚が海に突然沈んだときに投げ出された3人だったですが、噴火見学ツアーのヘリコプターは毎年のように墜落していました。

喫煙の死亡リスクは、ヘリコプターパイロットと同じくらい高い。1/200です。タバコ飲みはやすやすと死にやすいことを若いみなさんは承知すべきです。タバコ飲みは、いま蔓延している新型コロナウイルスに感染すると重い肺炎になりやすい。

がんで死亡するリスクは1/500です。いま日本人は一生のあいだに半分ががんになり、3分の1ががんで死亡します。先進国ではがんで死亡するひとの割合が多くなります。それは、他の要因でなかなか死ななくなるからです。

生命保険を考えましょう。保険料年額1万円で、死亡時に保険金350万円が支払われる商品があるとします。20歳のあなたはこの商品を買いますか?

20歳1000人が1万円払うと1000万円集まります。1年たって死ぬ人は1人ですから保険会社は350万円しか支払わなくてよい。650万円丸儲けです。だから、保険料は年齢によって違います。若者の保険料は安い。高齢者の保険料は高い。保険は、多数の事例を収集してきちんと計算してあるのでリスク評価するときに参考になります。

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死因を年齢別に見たグラフです。一番多い死因は悪性新生物(青)すなわちがんです。10歳が底で、年齢とともに上昇します。交通事故(緑)は、20歳と80歳が多い。免許取りたての若者は無鉄砲で、高齢者は運転ミスしやすい。最近は高齢者による痛ましい事故が多発して、運転免許証を返納することが歓迎されています。あ、保険でした。自動車事故の保険料が、40歳を一番安く設定しているのはこういう統計をきちんと分析した結果によります。

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上のグラフは、不慮の事故による死亡を1899年から2008年まで棒グラフにしたものです。毎年3万人くらいが死亡しています。大正関東地震が起きた1923年は7万人に跳ね上がりました。神戸の地震が起きた1995年は7000人ほど突出しただけで、それほど目立ちません。このグラフにはないですが、2011年の東日本地震の死者は2万人でした。

下のグラフは、1995年から2008年までの変化を、死因別にグラフにしたものです。交通事故が劇的に減っていることがわかります。窒息、転倒・転落、溺死は少し増えています。

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社会リスクは、被害と発生確率の積で求められます。被害は死者数で代表できます。その場合、むかし噴火したときに何人死んだかではなく、いま噴火したら何人死ぬかとします。被災領域内にいま住んでいる人の数になります。

発生確率は、噴火のようなめったに起こらない現象で正確に求めることはむずかしい。ここでは、年代の逆数で代用しましょう。1万年前に起こったあと繰り返していない噴火は、1万年に1回の発生確率だと思うことにします。正確ではありませんが、まあ(桁では)だいたいあってるでしょう。ほかに方法がないのだから仕方ありません。

そうやって、顕著な噴火についてリスクを算出して、都道府県ごとに集計しました。

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火山リスクが200人/年を超えるのは、静岡県と鹿児島県です。100人/年を超えるのは、北海道・青森県・秋田県・群馬県・神奈川県・長崎県です。死亡記録のある最近の(小さな)噴火のリスクは、何万年も前に広大な面積を火砕流が破壊したカルデラ破局噴火のリスクに凌駕されます。つまり、私たちはまだ、火山の本当の力をまだ知らない。火山の真の恐ろしさをまだ知らない、というわけです。

遠い過去に起こった火砕流噴火の事例を見てみましょう。

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阿蘇カルデラから8万7000年前に発生した阿蘇4火砕流は、鹿児島県を除く九州全土と山口県を壊滅させました。阿蘇4火砕流が席巻した領域内にいま1100万人が住んでいます。1100万人を8万7000年で割ると、そのリスクは126人/年と計算できます。毎年126人ずつ死なないとならないリスクなのですが、幸いなことに8万7000年間起こってないのでひとりも死んでないということです。

南九州に広がるシラス台地をつくった2万8000年前の入戸(いと)火砕流の上にはいま300万人が住んでいます。リスクは107人/年です。青森県と秋田県にも同じようなシラス台地が分布します。1万5000年前に十和田湖から噴出した八戸火砕流がつくりました。そこにいま200万人が住んでいます。リスクは133人/年です。

火砕流噴火を掲げた上の表にはないですが、山体崩壊と土石なだれもリスクが大きい。たとえば、浅間山が2万4300年前に崩壊して発生した塚原土石なだれの上に100万人が住んでいます。リスクは41人/年です。富士山が2900年前に崩壊して発生した御殿場土石なだれの上に50万人が住んでいます。リスクは172人/年です。

榛名山の1500年前の熱雲のリスクが200人/年と計算されますが、これについては1500年に1回の発生頻度見積もりが過大なようです。本当は3分の1くらいでしょう。日本中の火山リスクをこうやって足し合わせると、2200人/年になります。交通事故リスクの半分くらいです。火山リスクが交通事故リスクを上回る都道府県は、鹿児島県・群馬県・秋田県・青森県です。

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リスクの取り扱いには三段階があります。第一は、そのリスクが存在することを知るリスク認知です。第二は、その程度を測るリスク評価です。これは科学の手法によって行います。第三は、それをどう処理するかを決めるリスク管理です。これは、社会では政治家が決めます。科学によるリスク評価だけでなく、経済や文化などを加味して決定します。ときには、科学によるリスク評価を無視した決定がなされることもあります。

現在進行中の新型コロナウイルス対策に当てはめて考えるとわかりやすい。リスク認知されたのは昨年2019年12月のことでした。それまでは、存在しなかったリスクです。その後、医学専門家がリスク評価して死者数の予測などをしました。政治家がリスク管理して、外出自粛や休業要請を行いました。感染防止対策を取ることは重要ですが、それに熱心すぎると経済が立ちいかなくなります。命が助かっても収入が途絶えれば生活できません。リスク管理は政治家の腕の見せ所です。

この三段階とは別建てでリスク・コミュニケーションがあります。特定のリスクについて、当事者たちと会話してよく理解してもらいます。専門家が当事者に一方的に情報を与えるのではなく、双方向の情報交換をすることが大切です。集会を開くことが一般的です。

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ここで地震保険について説明しておきます。地震保険は火災保険の特約として販売されています。将来みなさんが家を買うとき、とくに戸建ての場合は、火災保険を購入するのが一般的です。その時、地震保険も併せて買うかどうか考えてみましょう。

ここで耳より情報をお伝えします。火山噴火による被害も地震保険でカバーされます。どうやら保険屋さんは学校で地学をよく勉強しなかったらしい。保険屋さんにとって、噴火は地震なのです。

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地震保険料は国が定めています。どの保険屋さんから買っても同じ値段です。都道府県ごとに定められています。群馬県は1等地。東京都は4等地です。どのくらい保険料が違うかというと、保険金額1000万円につき、1年につき、1等地は1万円、4等地は3万1300円です。木造の場合です。群馬県は東京都の3分の1の値段です。

この等級は、過去400年の地震被害から算出されました。だから、東京都から宮崎県にかけてが、東海・南海地震リスクを反映して等級が上がっています。2011年3月の東日本地震の被害を受けた岩手県と福島県が1等地なのは、1000年ぶりの地震を予知することがなかなかむずかしいことを示唆していますが、ここではこれ以上立ち入りません。

等級は過去400年の地震被害だけから算出しました。噴火被害を含んでいません。浅間山の1783年噴火で群馬県で1490人の死者が出たことは、地震保険料の算出に含まれなかったのです。ですから、群馬の地震保険はお得です。少なくとも吾妻川流域に家を持つ人は、地震保険を購入することを強く勧めます。

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保険屋さんが考える地震リスクは、過去400年の実績から計算したものですから、過去によく揺れたところほどリスクが高いことになっていますが、地震学者、とくに活断層学者が考える地震リスクはそうではありません。活断層の平均活動間隔と最新地震で地震リスクを推し量ります。繰り返し間隔が千年も万年もあると、最近動いたばかりの断層の地震発生リスクは低く、長く動いてない断層の地震発生リスクが高いことになります。満期が近いと危ない。悪いやつほどよく眠るというわけです。

いっぽう火山は、元気なものほど噴火リスクが高いことになっています。桜島や浅間山のように頻繁に噴火する火山に大学の火山観測所が設置されています。地震と噴火は、保険屋さんが混同するくらいよく似ていますが、リスクのとらえ方は逆になっています。興味深いものです。なお、火山でもカルデラ破局噴火については悪いやつほどよく眠る考え方ができますが、国策とまではなっていません。

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決定論的な予知は、地震でも噴火でも無理です。できません。○月○日に○○地方で地震が起こるたぐいの予言はすべてお遊びです。真に受けてはいけません。噴火予知は、確率表現にしかなりようがありません。浅間山が一週間以内に噴火する確率は○%ですのような表現になります。毎日発表されている降水予報だって確率表現ではありませんか。あのような発表形式が火山麓住民向けに出されるとよいのですが、まだ実現していません。確率はあいまいな情報ですから、いかにうまく伝えるかに工夫が必要になります。

あいまい概念は伝えにくい。日本人の中で確率概念を理解しているのは30~40%に過ぎないそうです。心理学者の木下冨雄さんによる上手なまとめがありますのでご覧ください。

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民主党政権下だった2010年10月に行われた事業仕分けで、興味深い質問が政治家から浴びせられました。「2位じゃダメなんでしょうか?」と同じ日だったかな。「2位じゃダメなんでしょうか?」は質問としてまったく正当で、答える側がお粗末だったと私は思いますが、スーパー堤防については、質問者が確率をまったく理解していないことを露呈したと思います。

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200年に1度の大雨に備えるためのスーパー堤防を400年かけてつくっても問題ありません。おかしいと思いません。つくる必要があると政治が判断するならつくればよい。つくっても200年に1度の大雨で流されてしまうからスーパー堤防は永遠にできないと思うのは間違いです。流されるのは一部です。いや、スーパー堤防は流されません。まだできてないところから川があふれて氾濫するだけの話です。400年かけてスーパー堤防をつくることに多額の予算を使う価値があると信じるなら、完成を目指してつくり続ければよい。スーパー堤防とは、幅が何百メートルもあって、その上に学校や校庭をつくってしまう巨大な堤防をいいます。荒川や利根川に建設されています。

キラウエア火山ハレマウマウ火口の2018年4月14日から8月20日までの拡大と沈降をとらえたタイムラップスです。火山ではこのような目覚ましいことがときどき起こります。拡大する前のハレマウマウ火口の直径は900メートルでした。

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大規模な出来事はめったに起きませんが、何度も繰り返すのがふつうです。タイの湿地に掘られた断面に、津波が残した白っぽい堆積物が4層見えます。2800年前、1450年前、700年前、そして2004年12月に起こったインド洋津波です。

過去の大津波の痕跡が地層としてこれほどきれいに残っていることに驚きますが、表層が泥炭ではなく津波堆積物からできていることにも何かの因縁を感じます。いや、大津波があったからこそ、この穴が掘られたわけなんですが。

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2011年3月11日の大津波も東北地方沿岸に堆積物を残しました。石巻市の大川小学校では厚さ12センチの砂からなります。粗い成層構造がみえます。厚さは場所によってかなり変化します。同様の堆積物は869年の貞観津波にも認められます。

繰り返しや周期を考えるとき、サイコロ問題が理解を助けます。

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ランダム事象の発生確率は、それまでの履歴に左右されません。サイコロを振って1の目が出る確率はいつも1/6です。

しかし、大学教授でも周期と頻度を混同しています。上で説明した満期が近い活断層と似た考え方に毒されています。活断層の場合は繰り返し間隔が測れますから、満期にはそれなりの理論的裏付けがまあ、あると言ってよいでしょうが。

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カルデラ破局噴火が1万年に1回というのは日本列島全体を見たときの頻度です。特定カルデラの繰り返し間隔ではありません。もっとも新しい鬼界カルデラの破局噴火から7300年たっているから次がそろそろだの考えは、間違っています。日本列島でカルデラ破局噴火は、1万年に1回の確率でランダムに起こってきました。7300年起こらなかったからといって確率が増すことはありません。

来たるべき噴火に備えて、火山ごとにハザードマップがつくられています。都道府県と市町村を中心とした防災協議会がつくった浅間山のハザードマップを見てみましょう。

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山頂火口中心から半径4キロで描かれた円は、火山弾が届く範囲です。東に延びた扇形は、上空の西風によって吹き寄せられた火山灰が降り積もる範囲です。赤は火砕流と熱風だそうですが、ちょっとへんです(小さすぎる)。それから、谷筋にラハールが水色で描かれています。

まあ、かなり不満な地図ですが、お役所がコンサルタント会社に外注してつくるとどこでもこんなものができあがります。浅間山は、これでもよいほうです。

気象庁が浅間山の噴火警戒レベルを3にしたとき、どの登山道とどの自動車道に規制がかかるかをハザードマップで確認してみましょう。

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色づかいがたいへんわかりにくいですが、黄線が立入禁止になる登山道です。峰の茶屋、浅間山荘、車坂峠から先に行けなくなります。赤線が通行止めになる自動車道です。溶岩樹型からしゃくなげ園を通る群馬坂が4キロ円にかかるために通行止めになります。

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同じ噴火警戒レベル3でも、さらなる規制を地元自治体は用意しています。峰の茶屋から鬼押出しまでの浅間白根火山ルートは4キロ円に沿って通っていますが、ここも通行止めになります。白糸有料道路も通行止めになります。噴火警戒レベルが4になると、住民の避難が始まります。

下は、私がグーグルマイマップでつくって公開している浅間山ハザードマップです。赤系統が1783年噴火、オレンジが1108年噴火です。過去の噴火実績は、どんなシミュレーションをもしのぐ優秀なハザードマップだと私は考えています。パラメータを恣意的に選んでつくったシミュレーションよりも、事実を表現した地質図が頼りになります。

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1783年噴火で吾妻火砕流は8.5キロまで流れました。1108年噴火で追分火砕流は4方向に流れて、どこも12キロまで到達しました。追分火砕流が流れ広がった領域は、いまでも浅間山の火砕流に脆弱だと考えます。浅間山に限らず、桜島でもどこでも、12キロは火砕流が走ると覚悟して用意する必要があると思います。桜島から火砕流が12キロ走ると新幹線の鹿児島中央駅まで届きます。

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火山のリスクは、噴火中心から同心円を描くことで比較することができます。浅間山・御嶽山・箱根山・口永良部島で、4キロ円と8キロ円を描いて比較してみました。

浅間山は、4キロ円の内側に住んでいる人はいません(2.2キロの火山館に常駐する管理人を除く)。御嶽山は、5.7キロまで住んでいる人はいません。どちらも、居住地まで火山弾が届くことはありません。火山弾のリスクを負うのはもっぱら登山者です。

箱根山は4キロ円の内側に大勢の人が住んでいます。宿泊施設もたくさんあります。火山弾が居住地を直撃するリスクがあります。そういえば、6月4日に桜島で火山弾が3.4キロ飛んで、住居のすぐそばに大きな衝突クレーターをつくりました。

口永良部島は4キロ円の内側に島民100人全員が住んでいます。いざとなったら4キロ円の外側にある高台(番屋が峰)に急いで車で避難する計画になっています。

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北関東の火山リスクマップです。過去に火山噴火で更新された土地に色を付けました。色分けは次の通りです。
     赤
   (1000年前)
     桃
   (1万年前)
     緑
   (10万年前)
     青

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南関東のリスクマップです。箱根山から7万7000年前に噴出した火砕流が横浜市まで届いています。いまこの領域には400万人が住んでいます。


もっと詳しく知りたい人へ
日本火山のリスク評価、2016年
1100万人が数時間で全滅!日本人が知らない「破局噴火」の恐怖。産経デジタルiRONNA、2016年4月17日



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