硫黄岳(八ヶ岳)のアグルチネート
硫黄岳の山頂には北に開いた半円形の凹地がある。観光案内は爆裂火口だというが、爆裂の意味は不明だ。この半円形の凹地は谷頭浸食でできた。雨上がりだった昨日も、急斜面がガラガラと音を立てて崩れていた。足下のすぐ先が切れ落ちているのでそばにいていい気持ちはしない。
磐梯山1888年噴火でできた馬蹄形凹地も、かつては爆裂火口と呼ばれた。火山爆発で噴き飛んだイメージだ。しかし現代火山学は、磐梯山の馬蹄形凹地は山体が重力に引かれて崩れ落ちた結果だと考える。硫黄岳の半円形凹地も同じだ。噴き飛んだのではなく崩れ落ちた。それも磐梯山のように一気にではなく、年月をかけてゆっくり少しづつ。
硫黄岳は(浸食されつつも)整った円錐形をなすから、半円形の凹地内に山頂火口があったことは確からしい。ただし、復元すると直径200メートルにしかならない。大円錐火山の山頂火口としては小さい。浅間山の釜山火口は直径350メートルだ。
半円形凹地の近くだけに火山弾が落ちているから、火口であることに疑いはひとつもない。
最上部を厚く覆う堅牢な岩石が目立つ。これは溶岩でない。降り積もった軽石が接着してできたアグルチネートである。山頂火口から火の泉が上がる噴火がかつてあった。
地形を丸く一様に被覆するから、低所を選んで流れ下った溶岩ではなく、空から降り積もってできた。火口壁に露出するアグルチネートとしては、十和田湖の瞰湖台に露出する南部軽石が有名である。高さ40メートルのプリニー式降下軽石の下部5メートルが溶結している。
半円形の東側の内壁はいつも陰になって観察しにくいが。最上位層と同様の噴火が過去に2回あったことがわかる。最上位層の下に浸食不整合がある(扉写真)。
887年8月崩壊は硫黄岳に影響を与えていない。それはひとつ北側の谷だ。
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