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「聖なるもの」と「花に嵐」

強烈な映像体験。

先日、U-NEXTで予てからオススメされていた「聖なるもの」を観た。

超簡単なあらすじなんかはこちらこちらをみていただいて。

で、超ありきたりな感想としては、この映画を僕が20代前半に観ていたら超絶な嫉妬心に駆られたと思う。先月30歳になったばかりなので、もう嫉妬心などはないけど、20代に観たかった作品だなぁって思った。

岩切一空監督の出自も、何作目かも分からないけど、この「聖なるもの」という作品はとにかくエモい。そして岩切監督の知識量というかインプットの使いかたがよく勉強しているなぁっていう使い方。

エモいって一言で言っても、そもそもエモいとは何か?って話なんだけど、エモーショナルでなんちゅーかヤバいとかそういうことらしいけど、僕の場合、懐かしさとか謎の高揚感とか、無駄にオシャレとかそういう時に使う言葉な気がする。

で、エモさの源は明らかに音楽なんだけど、音楽を担当してるのはボンジュール鈴木さん

今この記事を書くまで、男だと思ってたんだけど、女性なんですね。
HPを観ても分かる通りエモいです。

映画は、細かな描写が必要なところに突如、ボンジュール鈴木さんの作ったエモい曲が流れてMVに早変わりします。
映像と音楽だけで全てを表現するMVで劇中劇的に乗り越えるわけです。
これが3、4回くらい挿入される。そう言えば最近見ていたネットフリックスのフォロワーズもそうでしたね。

鈴木さんの劇中の曲が、僕らの世代でいうと相対性理論みたいで、非常にエモさがあった。僕が20代前半の演劇シーンにはこう言ったノリの音楽が多用されていたことを思い出した。(若い世代なら一度は通るものなのかも)

シフォン主義

相対性理論と言えば、シフォン主義。大学の時の自主公演で使った記憶

2つ目に書いた岩切監督の知識量とかインプットについては、ホラー、オカルト、AV、あとこの映画で言えばエヴァみたいなアニメの影響も大きくあるんだろうなと感じた。

この映画は、映像研究会に4年に1度出る幽霊がいて、その幽霊が作品に出演すると傑作になるっていうメインのストーリーがある。
その幽霊が「聖なるもの」とされているという話だが、このオカルトが入り始めると、文字のフォントが突然「本当にあった呪いのビデオ」シリーズのようになる。

本当にあった呪いのビデオ83

本当にあった呪いのビデオは生誕20周年・・・!
感謝の土下座に見える。

これ、結構オカルトファンからすると嬉しいもので、よく勉強されている。
もともとこう言ったフェイクドキュメンタリーの作りは「本当にあった呪いのビデオ」シリーズだし、当然と言えば当然なんだけど、この形式を取ってきたものが、一般向けの映画ではなかなかありえなかった。

ホラー系の演出が、随所で露見されるが、あくまでこの映画はホラーではないので、全てが回避される。

例えば、謎の屋敷での出産シーンの帰り道。
ホラー系のビデオなら、この帰り道で何かが絶対起こる(いわゆる霊の出現ポイント)のだが、この映画でもそういう雰囲気になり、車道の車がこちらに向かってくる。
心霊ものならここで車がぶつかってくるとか、ぶつかりそうになって、避けてその後事象が起きたりするが、この映画は車が素通りする。

この車の素通りがいやらしい演出なんである。
オカルト演出をわかって見てると、あ、ぶつかるかもやばそうって思うからだ。あるものは期待するし、あるものは身構える。けど、何も起きないのだ。これが連続してくるから、物語に飽きない。演出がとにかく小憎たらしいし、うまい。

と、ここまで絶賛の「聖なるもの」。
が、僕が最初に20代前半に見たら超絶嫉妬したけど、今はあまりと書いたのには理由がある。
それはこの映画が20代のエモさで出来ていて、かつ最後が腑に落ちないからだ。
20代のがむしゃらなパワーはビンビンに感じますが、この映画、終盤になると、多分ついていけない人が増えます。

よくありがちなのですが、精神世界だったり、わかんないけど単館系映画ってこういうものじゃん?っていうアート思考だったり、とにかく見ている客の大半が理解が及ばないと、結果よくないなという評価になったりします。

「聖なるもの」も、わかりそうでわからないギリギリで結果、わからないという作品になった印象を受けました。それはこの映画が、映画のための映画だからでしょうか?僕にははっきりとはわかりませんが、なにか心に残るというのは、こういうことはではない気がします。

この何か心に残るものが、よく分からなかったではなくなった時に岩切監督がさらに飛躍するように感じました。

ただ、主演の小川さんをここまで可愛く、魅力的に撮るということは才能がないとできないことです。ここにAVの影響を感じました。(あとは南さんが一回転するところでいちいち「あっ、あっ」とかいうところなどに)
青山ひかると松本まりかが出ているところにもセンスを感じました。

と、「聖なるもの」のレビューというか感想なんですけど、個人的にはかなり才能のある方だなと思っていたら

スクリーンショット 2020-03-31 19.45.12

まさかの一作目?でしょうか、YouTubeにアップされていると知り、急いで見ました。

「花に嵐」はあらすじはこちら

やりたいからやるんでしょ?

感想としては基本的に「聖なるもの」と一緒じゃんという。

ただこちらの方が「本当にあった呪いのビデオ」味が強いです。
いちいち字幕で大事なことは赤字で思わせぶりに演出するところとか、そもそも本筋がオカルトです。

で、こちらは最後までオカルトでいくんですけど、「聖なるもの」よりもご都合的なシーンが多いです。
これは「聖なるもの」の劇中劇の笑いに通じますが、まぁ、オカルトを知ってると笑える。出演者が、論理の飛躍だったり、なんでそうなるの?というフロム脳(フロムソフトウェアというゲーム会社のファンはだいたいこの考え。作品内で説明されないことを理論的、あるいは妄想的に補完する)ならぬオカルト・ホラー脳になっていきます。

作品全体に漂う、オカルト・AV・エヴァ的なもの(最後がほぼ一緒ですし)まで同じで、なるほど岩切監督のテーマなんだなと感じました。

ただ次作よりもご都合展開が多く、荒削りです。最後の、なぜか空にいたは笑えますが。(あるいは呆れる)

と、なんだか批判してるような感じですが、ここでも岩切監督の才能ってのは歴然としてあって、それは女の子を撮るのが上手いということです。

冴えない花

冴えないから女から、魅力的になる花

霊として登場する花なんか、最初可愛くないのに段々可愛くなるし、挙句のセックスシーン(ここはもう少し頑張って欲しいけど、カメラワークが面白い)だし、とにかく一人の女を魅力的に撮るということに関しては才能があります(ただし、「聖なるもの」の南さんに関してはちょっと違う気がする)。これは園子温的なものが岩切監督にあるからでしょうか。

で、岩切監督について書くと、この人の喋りがまためんどくさい感じがして、あー、いるいるこういう人っていう。
基本的に言葉通りにしか受け取らない(人間には感情があって、感情によって物事だったり考えは変わっていくけど、この人は不変)。センスとは真逆な人間性にも魅力を感じます。

で、作中、映画は「聖なるもの」なんだというような発言があって(たしか)、これは次作「聖なるもの」では、出ている役者が「聖なるもの」なんですよね。つまり、映画から人に聖なるものが移っていってるんですね。
だからなんだって話なんですけど、そういう意味ではこの2つの作品は連なっていて、やはり映画のための映画なのではないかと思うわけです。

そういう意味ではやはり理解しえないものであることに変わりないので、これを理解し得るものにかえた時に岩切監督の真価が問われる気がします。

と、その前に監督には「本当にあった呪いのビデオ」シリーズか「闇動画」シリーズにで一度腕をふるってもらいたいと思った次第であります。

とはいえ、もう商業映画も決まっていると聞くし、無理かなー。
でも観てみたいよなぁ。

ということでいつまで公開されてるか分からないけど、2作品ともオススメです。清々しいほど監督の性癖まみれなんじゃないでしょうか?(吐瀉とかね)

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