世の中には見えない仕事の方が多いのではないか
先日公開した靴工場のnoteは、お陰様で多くの方に読んでいただけました。
驚くことに、noteユーザーさんを超えてアパレル界隈の方々、工場に勤務されている方々などにも読んでいただくことが叶い、その中で何人の方かが連絡を取ってくださいました。
その連絡の中で、また友人のお引き合わせもあり繋がることができたのが、中野にある「高田プレス」の清水さん。正直、私も弊社の服飾系大学卒業のデザイナーも「プレス」という仕事について知りませんでした。いわんや、それが一消費者であれば知らない人の方が大多数かと思います。
(中野にある高田プレスさん)
「もっと多くの人にプレス職人という職業を知ってもらいたい」という清水さんにお力添えしたく、今回のnoteを書き進めてまいります。
プレス屋とは?
そもそもプレス屋とはなんでしょうか。
(重そうなアイロンがあちこちに。)
プレス屋さんとは、アパレルの生産工程における仕上げを担うお仕事です。
具体的にはアイロンでのプレス作業、縫製の工程でできたシワなどを整えてお客様に提供できる状態にしていきます。プレス工場さんによっては、アイロンプレスだけでなく縫製ミスやB品がないかといったような検品作業を合わせてやるところもあります。高田プレスでも、縫製が仕様に合っていないのではないかというフィードバックから、ボタンがほつれている場合などはその場で直してしまうこともあるのこと。
高田プレスさんの作業場を見回してみると、大きなアイロン台みたいな機械がいくつも並んでいました。
これは「吹き上げ機」と言い、バキュームで服をぴったり吸い付けアイロンをかけやすくしたり、服の下から吹き上げることでアイロンの跡がつかないようにしたりなど、プレス作業をサポートしてくれる大事な機械です。素材によって、空気の強さやバキューム/吹き上げを微調整しつつ作業していくそうです。不思議な感じ。
(スーーーッとかけられていくのは見ていて気持ちいい)
クリーニング屋とプレス屋の違いは?
これだけ見ると「クリーニング屋のアイロン作業と同じ感じかな?」と感じる人も多いかもしれません。
気になり、代表の清水さんにクリーニング屋のアイロンとプレス屋のアイロンの違いをお伺いしたところ「クリーニング屋さんはお洋服を買った後のお手入れの話だけども、プレス屋はお洋服を買う前の最終仕上げなんだ。」と言う。
クリーニング屋さんは基本的に、実際お洋服を所持している人からの要望があってアイロン作業をする。その一方でプレス屋は、デザイナーさんからこのような仕上げにしてくれという要望があり、それを縫製工場からあがってきた服と睨めっこしながら叶えるのが仕事。全てを全て均一にアイロンがけしてピシッとするだけではなく、素材や雰囲気によっては柔らかにしあげたり、あえてラフに仕上げたりなど、全てを通してのコレという正解が無いなかを試行錯誤していくそうです。さらには、お客様の購入前の作業だからこそ、お客様とお洋服がより良い出会いを演出する役割なども。
(肩周りは丸みを持たせて仕上げます)
その点でいえば、かなり生産者に近い、というか立派な、生産者の一部なのだなあと感じました。仕上げと言えど、仕上げまで含めてのモノづくりです。プレス職人のみなさまは、デザイナーの意思を最後の数ミリにまで反映させていくんですね。
ここで、代表の清水さんが若手のホープとご紹介くださった、高田プレスの職人 小山さんにお話を伺ってみました。
「プレスは化粧と一緒」
まず、小山さんの経歴が印象的です。
(小山さんの後ろ姿。ハンガーにかけて仕上げをしています。)
現在38歳で、プレス歴は3年。
プレスは何十年と続く業界のためかなり若手とのことで、元々は縫製や販売の仕事をされていたそう。その当時バンドもやりつつ洋服の仕事をしており、また縫製の仕事に戻ろうかなと工場を探していたところ、師匠にあたる方に出会い「見込みがある」と言われプレスの道に入ることに。
小山さんが言うには、元々販売をやっていたからこそ、販売する商品に関わるクリエイター、職人達へのリスペクトがとても強い、と。
また、プレス職の魅力や強みってどのような部分を誇りに感じていますか?という質問に対しては「これは師匠の言葉がとても心に残っていて、師匠曰く『プレスは化粧と一緒』と。プレスが無いとなんとなくキマらない、目立たないけれどとても意味のある仕事です。」とのこと。
(小山さんは手早く綺麗、そしてブレる)
プレスとは無縁のサラリーマンがプレス屋になった理由
実は、こちらの高田プレスですがまだ今の体制になってからは1年ほどとのこと。
清水政紀さんの経歴
- 高田プレス運営 株式会社クオン代表取締役
昭和63年 株式会社新宿高野入社 MDを担当
平成11年 某セレクトショップの仕入れ、管理運営に従事
平成13年 株式会社三陽商会入社 MDを担当
平成29年 株式会社クオン設立、高田プレスの運営を引き継ぐ
そもそも清水さんはアパレル業界にはいたものの、商社で企画をされるなど、より消費者よりのところでお仕事をされていたためプレス工場とは無縁といっても過言ではありません。そんな清水さんがこちらのプレス工場を始めるに至ったのは、元々こちらの工場を仕切られていた方が高齢となり継続させていくことが難しくなったことが理由です。
プレスをはじめとしたアパレル生産背景各所では、職人や作業する人たちの高齢化や引退が目立ちます。私は仕事柄「アパレルブランドを立ち上げたいのですが、工場を紹介してくれませんか?」と聞かれることが多いのですがなかなか答えることができません、いじわるしたい訳でもないです、何故なら工場自体の数が顕著に減っているため紹介できる工場が無いんです。
企画だけじゃ出来上がらない
最近、個人発のアパレルブランドがとっても増えてきていることは何度もnoteやtwitterで触れてきました。実際、そういったアパレルブランドが増えることで市場としてもプレイヤーが増え、活性化していく側面が強いかと思います。その一方で、SNSで簡単にアイデアを発表でき、販売し、お客様と繋がれる今、一番表に立ってアイデアを発信する人…"ばかり"が増えてきているのも事実です。
本来、モノづくりは一人ではとても難しいものです。特に、アパレルはボタンひとつを取っても誰かが作ったものだし、想像している以上に多くの人が関わって成立している業界だと思います。ですが、SNSやネットを通して出回る情報はどうしても上流と言われる部分、つまり企画やデザインなど目立ち情報発信力のある職種ばかりです。そのためか、そこに憧れる人ばかりが増えて、企画者だけが増え、それを支えられるほどの生産者が存在しないのが現状なのではないでしょうか?
受け入れられる体制を作る
その一方で、業界として「職人に憧れられない」という空気を作ってしまっているのも事実だと清水さんは仰います。
たしかに、職人というとその道で突き詰めて何年もやっていくという点が、昨今の転職したりフリーランスで働いたりという流れと少しズレているように感じます。その道で腕を磨くことでしかキャリアアップできないような印象も。
そこで高田プレスでは、今後、そもそも儲からないようになってゆるやかに首が締まりつつあるプレスという仕事の仕組みから見直し、しっかり利益体質にし、若い人を受け入れ確かにステップアップしていく土壌を作っていこうとしているそうだ。そのためにはやはり、プレスという職業をアパレルの人たち、はたまた消費者の方々にも知ってもらい、何より良い仕事をした際にそれがしっかり評価されていく空気を作る必要があるように私は感じました。
果たして、私は、見えない仕事に敬意を払えていただろうか。
私は今こうやって表に立つような仕事を多くしています。その一方で、昨今、個人が表に立って仕事をすることばかりが評価されすぎているのではないかという懸念も少しあります。
世の中の多くの仕事は目に見えないですし、弊社も私こそ表に立っていますが、実際には何十人もの仕事が積み重なってブランドが、商品ができています。しかしSNSが普及することで、余計に私のような表の仕事ばかりが目立ってしまい、もっと基礎の工程がおざなりにされているようにも感じます。
それぞれの仕事に適・不適は、正直あると思います。ただ、自分に合っている仕事が表に出ない仕事だったとしても、そこにはとても価値があるし、自信を持って欲しいなと思うし、少なくとも私は心から評価したいです。
まずは、実際にそういった見えない仕事で働く人たち自身が自分の仕事に誇りと自信を持つこと、そしてそのうえで、それを評価しカッコいいと思える人が増えて、より多くの人が自分の力を一番発揮できる場所で活躍されることを願うばかりです。
■ 新作告知 ■
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店頭分は、高田プレスさんのプレス仕上げにてご準備しております。