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春侯爵詩片

まだ何の違いも
あらわれていない
もの心が
生まれたての頃に

私たちは
何冊かの本と
出会う

薄暗い
脳の部屋の中で
蚕が桑の葉を
食べるように

私たちは
ひそやかに
色のついてない人から
手渡された贈り物を
咀嚼し始める

絆あるもの
動き始めたばかりの心臓と
なぜか共鳴するものを

それは
一人だけかもしれない
数人かもしれない

そして
いつしか
彼らは
私たちから
遠ざかってゆく

そして
急速に
回転振動し始める
運命に翻弄されて
私たちが私たちを
使い尽くして
私たちが私たちを
脱ぎ捨てさる頃

彼らはまた
私たちの前に
あらわれる

どうだった
少しは
為になったかい

今度は
君たちの番だよ
こちらに
帰っておいで
今度は君たちが
私たちの現世を
導いておくれ

さあ
話しておくれ
君たちに
おきたことを

人が人を生むように
物語は物語を生むんだよと

羊皮紙に
万年筆でしるされた
君たちの航海を
私たちの旅出の
心付けに
しておくれと


■画像はヤフー羊皮紙画像より。


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