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クオンタム・スパイダー読書 『法力とは何か~「今空海」という衝撃』老松克博著を読む12.

『法力とは何か』
第二章    X阿闍梨のこと
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和尚によると、断食をすれば、地獄、餓鬼、畜生、修羅、人間、天、仏の順に境地が上がってゆく。開始当初は、身体の熱さに苦しみ、ついで食欲や性欲が亢進する。一週間たつと易怒的になるが、その後、落ち着いてくる。光や爽やかさが増し、遠くの微かな音(線香の燃える音や灰の落ちる音)、妙なる楽の音が聞こえはじめる。三週間が過ぎると、心が澄んで身体を忘れ、意識が宇宙に広がって、過去や未来がわかるようになる。そして、観想しているイメージが実体化し、光り輝く崇高な情景のなかで色身の諸仏に相見えるのだという。
病いを経ての帰郷

数時間しか睡眠を取らない断食続きの生活が三年余り続いた頃には、さすがの和尚も体力の限界に達したのか、命に関わるような大病を患った。急遽、大学に辞表を出して帰郷することになった。
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しかし、不思議に、苦しいことはない。ただ、ときどき意識が遠のくだけである。和尚は「どうせ死ぬなら、断食して拝みながら死にたい」と母親に頼んだ。そして、「自分がこれから何か役に立つことがあるなら生かしてください。ないならこのまま死なせてください」と願をかけて拝んだ。
やはり、使命があったものと見える。それから三週間、断食をしても和尚は死ななかった。名医たちの予想を覆し、生き延びたのである。
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塔頭の跡継ぎになって高野山にとどまっていれば、本山ヘの貢献度も上がるし、密教僧としてのいろいろな位や資格も得やすかっただろう。そのとき、和尚は栄達の道も捨てた。~~
しかし、そこでへこたれないのが和尚である。戦後間もない四国の遍路を思い立った。

同行二人
ふつうの修行僧の数倍の仕事をしながら三年断食。しかもそのプロセスで、六道輪廻の完璧なビジュアライゼーション(観想)を体得している。やはり通常の人間でなく明らかに前世からの仏道修行者に間違い無いと思われる。同行二人とは単に地上のお遍路さんのときだけでなく、生老病死〜死後〜輪廻を通してのお大師さまとの同行なのだ。私もあなたもまさにその今の現世そして新たなる前世にいる。旅に出発し、旅に迷い、旅を終え、また荷物をおろした旅に出てゆく。何を持って行くかだ。


生きてゆく。それも僧侶として、修行者として生きてゆくということは、深淵に臨んで我が身を架け橋にすることだと思う。何事かに自分の人生をかける挑戦者達は、身を持って、全身全霊をもって、世のため人のために自分自身を使うのである。その問題や苦悩、世の矛盾を身に受けきって苦しみ悩み、暗闇や絶望の世界に敢えて踏み込んでゆく。自分の悩みなどどこかに置き忘れて、人間と人間の生きる世界を少しでも生きるかいがあるものにするために、身も心も霊も捧げ尽くす。彼らの失敗は神仏のため息であり、彼らの成功は世の光であるのだ。


■画像はヤフー高野山画像、弘法大師画像、好奇心画像より。


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