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神話が始まる時代 1.

世代精神というものがあるとすれば、それは必ず時代精神また時代霊の一部であるはずだ。同じ年、年代に生まれ数十年をともにする人間の潜在意識、深層意識、民族意識は、前世とも関連して大きな人生課題、運命デザインを共有することになるはずだ。陸が海となり海が陸となるような激動の時代に生きなければならなかった人間のなかには、次世代の人間にとって、身を焦がす炎のような神話性を帯びる場合があると思う。車満男にとっての、伯父寅次郎がそうだと思える。小さな頃から、破天荒でフーテンの伯父の大暴れに身近でさらされていた、ごく普通の少年からごく普通の青年に満男は設定されている。しかしここで日本人の民族霊は、吉岡秀隆というこれまた昭和の時代霊を物語に送り込んでくる。1970年、埼玉県蕨市生まれ、かの尾崎豊の数少ない友人だったとは驚くべきことだ。やはり時代霊に魅入られて生まれている。『男はつらいよ』の前に野村芳太郎監督の『八つ墓村』主人公の寺田辰弥の少年期を演じていた。『北の国から』、クロサワの『八月の狂詩曲』などにも。並々ならぬ時代性を帯びていると感じる。彼が演じた車満男は、昭和という時代に生き残っていた焼跡出発組の、さらに神性を内蔵するアウトロー寅さんからの容赦ない逆光にさらされ、徐々に失われてゆく昭和という時代の夏の輝きを受けながら、少し内向きの時代性に収縮していく1960年代からの世代だ。吉岡秀隆自身も同時代人のナイーブかつ芳醇な永遠の青春性を帯びている為に、上り坂で拡張する前期昭和から下り坂で縮小する後期昭和の、いつまでも若い老い方しかできない世代そのままだ。
神話になってしまった寅さんから時代のバトンを彼は今見事に引き継いで、老いの中の青春、青春のまま老いてゆく、立派な時代霊を宿し続けている。今まさにシン老人化しつつある私たちの世代の少し頼りない神話が日本民族最期のものとなるかもしれない。


■画像はヤフー、寅さん画像より。

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