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琥珀集27.

瑞々しい詰襟に身を包み
世界に出てゆくことを窺っていた30年前の頃より
麗しかった頬肉はたるみ
血流の黒い結晶たる髪も抜け落ち
私たちは残骸のようになって故郷に帰ってきた
夢の中でまた現実において
私たちの旅路、歌曲、また協奏曲は高らかに咲き誇り
たわわに実り或いは地に落ちて腐れ果て
運良きものは美酒となって蔵に並び
旅路は円環のように閉じられ
夢の中でさえおぼろにかすれてゆきつつある
城館を打ち立てしものも一生仮住まいのものも
等しく私たちは破れかぶれの難破船のようである
海水を吸い美酒の香り残るその朽ち果てた
白い骨のような残骸によって私たちはこれからもう一度
最期の戦いを戦うだろう
帰還した放蕩息子の戦いは真実にあふれ
もはやこの世の汚濁にまみれはしない
人々の霊、命、心に長い間 力と意義を与え続けられる
不可視の柱のようなものを打ち立てるために
私たちは最期の力をふるう
苦く濁りきった半生の酒を澄み渡らせ
今わの際にこの世の境にて
天地に奉らんがために


■画像はヤフー、琥珀画像より。

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