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琥珀集42.

秋風も吹かず夜空も透きとおらぬうちに
太陽は雲を疾走らせ虫は真昼から鳴く
炎天にこわばった葉が落ち
水は淀んで寂しい山と雲を映す
雀は小さく痩せていて
遅いイチジクが膨らみ始め
ようやく朝はひえびえとしてくる
窓は閉まりがちになり
風も暗鬱に野の冷気を運んでくる
曇った日の正午すぎに薄い煙が吐き出されるが
蝉のいのちのようにすぐに透明になった
ああ素晴らしく豊かで涼しい空か
人は肌を隠して
雲は大きく息をついて千切れてしまった
山と空の境の木や草がわびしくたちさわぐ
冷たい雨と湿った風が
星が積み上げられる山上から降りてくる
遠い青い山は見えなくなる
閉ざされてゆく風景の中で
古木がいよいよ茂る
ああ夜こそ霖雨こそ霧こそ大歓迎だ
さあ作物を枯らせ
屋根や壁を打ち鳴らし
電燈に集まれ
さあ人の背に降り立ち
別離と出発を強いるのだ



■画像はヤフー、秋の嵐画像より。

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