『生死不問、男も女も首から上には特に価値なし』


「黙らないと、追手の前にわたしがお前を殺すぞ!」
「怒らないでくださいよォ、だって法律上はあいつら人間じゃないんスからブゴッ」
言い終える前に婦警は若者の鼻を裏拳で殴った。ぷァ、と鼻血が飛び、婦警は逆の手でハンドルを何度も回して急カーブを切る。
「黙れって警告したからな!」
「ふぁなが、ふぉごが」
「うるっさいな、もう一発喰らわしてやろうか!」
鼻を押さえた若者のマスクが血で汚れる。婦警が壊れたように笑い出した。
「ファハハ、ハ!そうだ、別に殴るくらいならいいんだ!痣は損傷に含まれない!わたし、アッタマいい!!」
追手からの銃弾がミニパトのリアガラスを砕き、再びの急加速で若者がシートに押しつけられた。舗装の悪い道で、砕けた強化ガラスの破片がポップコーンのように舞う。
「俺を粗末にあつふぁうと、中身のオリヒナルが黙ってませんよォ?」
「待て、何やってんだ」
「さっきの連中の顔をネットにアップしてるんひゅ」
「ウワアアアアア!!」
婦警は叫んで若者のスマホを奪う。
「お前、後でボッコボコにしてやるからな!」
「最初はただの臓器スペアだったかも知れんけど、今や俺は正義の代弁者なんで。止められないんで」
「歯ァ全部折ってやる!くそッ!署に!着いたら!」

通報によって彼を保護したのは融合保護特区のど真ん中である。若者は、社会の闇を暴くんだとかなんとか言いながら特区の住人たちの顔を無断で撮影し、咎められるとそのやりとりの一部始終を生配信でwebに公開したのだ。
即座にその首には賞金がかかり、今も続々と値上がり中である。たったいま、最後の写真アップロードのせいで別口の賞金がついた。
婦警が保護しなければ2分後には極道やテクニカ達に八つ裂きにされる運命だった。しかし若者には、いや、正確には「若者の臓器」には世界の未来がかかっているのだ。

署のある筈の方角から、不吉な黒い煙が見えてきた。

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