天狗ピックアップ 逆噴射小説大賞2021(1)

こんにちは。
今回は仕事で移動してますのでなんと、ノートパソコンを抱えてますクッソ重い。それはそれとしてこの貴重な「あんまり誰にも邪魔されない時間」というのを利用して、今回の逆噴射小説大賞、ピックアップをしていこうと思います。前回はスキつけたものを全部紹介しよう、と思ってやってたんですが今回はちょっと別の視点でやってみようかと思います。

こんなことを書いてしまうとお前自分の書いたやつもどうなんだよって言われちゃうかもとは思うのですが、冒頭800字のさらに冒頭、タイトルと書き出しの数行(正確にはプレビューで出る部分)のみで一次審査をして、そこから進んで読んだもののピックアップしてみます。

書き出し、タイトル、そういうものの書き方について、書く人にとっての何かの助けになればと思ってます。
あくまでも「タイトルと書きだしの数行」だけを基準に読んでみるので、投稿順というのもかなり関係するピックアップ(つまみぐい)になります。作者名に関しては、友人知己であるというのは今回は基準から外します。全部読むと内容はめちゃくちゃ面白いんだけど…というのも涙を飲んで外します(誰得)。

一番に目を引いたのはタイトルにある見慣れない文字列、意味の分からない文字列というのは、あるだけで割と興味を引きますね。そこからさらに、《彼女》の臀部から伸びる管、というフレーズで、なんだか分からないけど確認してみよう、という気が起きました。
やはり《彼女》というのは昆虫的な、二足歩行型ではない何かの様子。なんでしょうね。最初の行からなんとなく、人型ではないものを想起しましたが、彼女、という女性形と、命を送り込む、という形から産卵が想起されたのかな。多分そう。
初読時、《彼女》がどういうものなのかの答え合わせのように読んでしまったので、他のことにあまり目がいきませんでしたが、読み返すとなるほどな、となりました。知らぬものが多い世界だけれども、慣れてくると読みやすくなりそうです。
調べたら、グロビュールというのは星の卵のことだそうです。なっるっほっどー!となりましたが、これは元々知ってる人が見たらすんなりくるタイトルというやつなんですね。

おっぱいかな?と思ったらおっぱいでした。
そののちの展開についてはパルプの王道、バイク、チェイスとゾンビ、軽口の応酬。冒頭を読んでおっぱいかな?と思う人が好きそうな要素がぎっしり詰まっているので非常に素直な作かなと思いますが、個人的にはあとひとつ、捻りが入っているといいんじゃないかなと感じました。ゾンビが走って追いかけているのか、車とかに乗って追いかけているのかの描写がなかったので、その辺はちょっと気になりました。主人公の乗るバイクがメチャクチャゾンビ引きずってたりするとちょっと面白いですね。道路に腐肉の線が引かれてゆく感じ。すり潰せ!
ともあれ、冒頭の一言で興味をもって開いて、その後に同じ味のものが入っているのは、パッケージとしては非常に誠実なのですが、意外性があるともっと好みかなと思いました。

今度は逆に、冒頭で蘊蓄の話になるかなと思わせておいての、ストーリーラインは全く別のもの、というパターンでした。冒頭だけ読んで中を開くの、けっこう楽しいですね。
内容については、半分にされた男の死体を前にして謎を展開していくスタイル。ただ、タイトルと冒頭の一行、登場人物の属性が一致しているので、おそらくは教会にあるんだろうなという予測がつく段階で終わっているのが惜しい感じがしました。これは「どこまで描写しておくか」という問題にかかわっているかもしれません。ここから「教会でしょ」という読者の想像を裏切るのは難しくないとは思いますが、それが何処なのか、というところでこそ心は掴まれるような気もします。

拙作です。
これは自分で書いたのだから自分が興味をもって当然ではあるのだけど、冒頭、マガジンのプレビューでいうところの2行だけを見ると「例のびっしり生え」で切れてました。びっしり何が生えてんの、というのはちょっと興味湧くな、という感じです。偶然ですけど。
内容については、冒頭の話を受けて一度転調をしているのですが、タイトルの意味を回収してしまっている=オチがついてるのでは?という指摘を受けてなるほどな、と思いました。冒頭で興味を持たせ、いいところで切って、タイトルから続きの展開を想像させる、というのが定石なのかなと思いますが、その意味では「一息ついてしまった」という気もします。それはそれとしてドライブ感はあるので読んでネ。

これはタイトルほか諸々のインパクトがズルい作でしたが、よく読むとちゃんと要所を押さえている作のように思います。「妾」の読みが「わたし」ではなく「わらわ」だというインパクト、「金のがちょう」のおとぎ話を題材にしているあたりのバックボーン、ギミックとしての「ここまでボタン」など、基本的には作者の狙い通りに面白がらせていただいている感じがします。
あとは好みの問題ですが、一人称の文体や、それよりさらにくだけた感じの口語などのあたりが、逆に、無慈悲な感じで硬質だったりすると「真顔でボケてる」感じが出るかななどとも思ったりしました。審査員が常に真顔だと、伝わらない物真似選手権は覇権コンテンツになったと思います。
タイトルでこの先の展開や作品の読み味をざっくり報せるという意味では、このタイトルは卑怯でもありますし、すごく優れたプロダクトであるとも言えます。この先に登場するであろうアルティメットメカ鵞鳥のことを考えると夢も広がりますね。鵞鳥は「がちょう」と読みます。調べるのめんどい人のために一応。

これはね、もうズルいんですよ。冒頭一行で描かれる世界がはっきりしている。冒頭で「因習根深い寒村、妾の子」と書かれた時点で閉塞感が漂うように、「舞台が決まった時点で物語の方向性と結末があらかた決まる」という「日本文学」という形式なんですよ。本来。
それを2行ではっきり示せるというのはものすごくすごいことなんですよ。本来。
そして、その「定石」をぶち転がす異物をゴミ捨て場にダイナミックエントリーさせるのは狂気としか呼べないんですよ。でもそれが逆噴射なのだと思います。常識的には、「あとひと捻り」で頸椎折っちゃダメなんですけどね。
個人的にはこれ、タイトルをもう少し変えたら完全に化けたんじゃないかと思います。大賞をとってもいいとマジで思うんですよ。本来。
これが通らないとしたら、それは多分スモちゃんに怒られの要素を塗りすぎたこれまでの素行の問題だと思います。反省して。

これはタイトルがだいぶ引っ張ったと思います。冒頭の「何気ない」というにももっと解像度の低い文体。漢字すら多くない口語体と、そこにそぐわない「暴力屋」の三文字。何が起きるのかは全く分からないけど、不穏なものだけは伝わるというスタイル。
本文、サビ部分の暴力的な感じというか、主人公のキャラクター性に魅力を感じてほしいと願っている気がしない感じ、突き放したようなスタンスはとても良かったと思います。
ただ、最後の台詞文手前の意味が若干分かりにくいかなという気はしました。「飛ぶよね」の主語は自分で、直後の「逃げっからさ」の主語は手榴弾を放ってきた相手だと思うのですが、そこに若干の読みにくさ、混乱があるのかなと思います。何度か読んで腑に落ちましたが、最初、吹っ飛んだあとに自分が逃げるのかな、と誤読してました。ちゃんと読めるとすごくイカしたラスト。暴力が発散される手前の、みしっという圧力。

これ、内容がすでに千点なのでは?という作なのですが、冒頭についてもだいぶ練られたもののような感じがしました。「遮温服」というターム、白い雪を見たことがない、という二句目。薄火点というタイトル。
先程、冒頭で世界を規定して物語の色彩をあらかじめ決めてしまうのが「日本文学的」と書きましたが、その意味でいうとこれもまた、日本文学的なのかもしれません。「12マイルは遠すぎる」のように、短文の中に情報を詰めるというのは非常にテクニカルで、エキサイティングな作のように思います。そしてこの魅力的で謎めいた世界設定を冒頭に圧縮して、語られるのが明確な「謎」!これは凄いものだと思います。今回優勝するんちゃうかな。

またまた拙作。サッチモとワッタワンダフルワールドという取り合わせは、実在の名前に寄りかかっているようでちょっとダメだったかな、と思っているところ。文が笑っている、という感じではないつもりなんだけどツカミのところが分かりやすく「面白いこと言おうとしてる」と取られるとちょっと切ないけどそれはもう言い訳のしようがないところ。冒頭二行では「なんの物語かわからない」というのは減点ポイントかなとも思う。冒頭だけの小説賞、ムズカシイネ。

続く。






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