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HAX Tokyoが振り返る2023年

新型コロナウイルスのパンデミックから共存社会へとシフトし、さまざまな業界のデジタルシフトが加速した2023年。国内外のスタートアップ環境も大きな変化のあった一年でした。

HAX Tokyoメンバーによる今年の総括と、来年に向けた抱負をまとめた座談会の様子をお届けします。


HardwareからHardTechにシフト

ーー今年一年を振り返りつつ、印象に残ったトピックスがあれば教えてください

岡島:今年もさまざまなスタートアップと会いましたが、大学発ハードウェア・スタートアップと、IT/ソフトウェアを軸としながらも、データ収集のためにハードウェアも利用するスタートアップが中心でした。一昔前のようなゴリゴリのハードウェア・スタートアップは、私が会った範囲では少なくなった印象があります。

国内の動向ではHOYAからスピンアウトしたViXionのアイウェア「ViXion01」やX68000の復刻版がクラウドファンディングで大成功を収めていたこと、その二つに関わっていたのがkibidangoとGOROman氏(エクシヴィ代表取締役社長 近藤義仁氏)だということも印象に残っていますね。

一方で生成AIがバズワードになったにも関わらず、LLMを活用したハードウェアが思ったより出てこなかったことも気になっています。ローカルで動くLLMもありますし、来年以降に増えてくると1ガジェット好きとして嬉しいです。

市村:今年から政府がスタートアップ支援を表明したこともあり、国内の補助金や助成金制度が充実した一年だったと思います。スタートアップにとっては資金調達の手段が増え、非常にいいタイミングだと思うので、ぜひ活用してほしいですね。

廣畑:SOSVのメンバーとのやりとりの中で、彼らの関心が単純なHardwareではなく、物理や化学を活用したHardTechにシフトしていることを、ひしひしと感じています。
HAXがニュージャージー州に新設した拠点にも、HAXが従来から取り組んできた試作・開発設備に加えて化学実験専用のスペースが設けられたり、2022年にはCSO(Chief Science Officer)のポストを新設しています。

この数年でスタートアップがあらゆる業界で席巻したことによって、ソフトウェアやSaaSを切り口にさまざまな社会課題の解決が進んでいます。これに伴い、より複雑な社会課題に取り組むスタートアップが増え、その課題解決の手法としてハードウェアやサイエンスの力が求められるようになったことも背景にあると思います。日本でも投資対象としてディープテックにも取り組むVCやファンドが増えているように、グローバル全体の流れになっているように思います。

ディープテックへの投資が70%を占める中国

重久:私はHAX Tokyoと並行して、北米のCVC、2023年はLLMや生成AI、自動運転技術などのスタートアップによる大型の資金調達が目立ちました。日本でも同様の傾向があるかと思いきや、2023年上半期の国内最大規模の資金調達は自動・遠隔制御ロボットを開発しているTelexistenceだったことが大変印象的でした。大きな流れとしては日本も海外も同じ方向を向きつつも、日本はお家芸であるロボットや制御技術にエッジを立てていますよね。こうした海外の流れを日本のスタートアップは、どのように捉えるべきでしょうか。

岡島:明確なアプリケーションさえあれば伸びるのに、眠ったままの技術が多いのが日本の特徴でもあります。海外のVCも同様に評価していて、ポテンシャルは非常に大きいと感じています。

研究開発型のスタートアップがビジネスとして成功を収めるには、自分たちと同じ領域にいる海外の研究者やスタートアップの動向をリサーチするべきでしょう。研究成果を良い形でビジネスに応用するためには、目の前の研究も大事ですが、自分たちと同じ領域の研究がどのようなビジネスに応用されているのかの具体例を知ることが重要です。またディープテックやハードテックは莫大な資金が必要であり、国内だけでなく海外からの調達も視野に入れるべきです。現状ではあまり海外に目を向けていないスタートアップも多いのですが、早い段階から海外戦略を練ることを勧めています。

市村:NEDOの助成金も海外進出を目指すスタートアップを意識していますよね。海外に出るために、国内の助成金を活用する流れは加速すると思います。

一方で海外進出する前から、競合企業や自分たちと相性のいいVCの投資先を調べておくべきですよね。助成金の審査の段階で、海外の動向や競合企業のリサーチ状況を指摘されて、何も答えられずに終わるということは避けたいところです。

出典元:GPCA

重久:岡島さんと市村さんに伺いたいのですが、中国ではディープテックへの投資が急加速していて、2022年には投資額の7割がディープテックというデータもあります。投資が集中しているということは、それだけディープテック関連スタートアップも多いということだと思いますが、日本もこういった流れに追随するためには、どうしたらいいと思いますか?

市村:上の図を見ていると、2017年はコンシューマーテックが7割近くを占めていますよね。それは当時、人々の生活をより便利に・より豊かにしたいという方向にスタートアップも資本も集中していたのだと思います。そうして、コンシューマーテックが大きく成長した結果、差別化戦略としてR&Dが欠かせないという判断と、研究開発に投資する中国政府の政策と重なった結果、2022年のような分布になったと思います。もちろん、この背景には論文数が世界トップであることも大きく影響しています。

日本は現在スタートアップへの支援に重点を置いていますが、大学や企業の研究開発に対する支援は充分とは言えません。

特に大企業からのスピンアウトやカーブアウトによる起業も増やす必要性を考えると、R&Dへの投資や支援を手厚くする必要があるでしょう。またディープテック領域は花開くまで時間を要します。短期的なキャピタルゲイン視点のみではなく、一過性ではない中長期に渡る支援が重要になると思います。

岡島:20世紀までは365日稼働する港の数と隣国との位置関係が地政学における重要なポイントだったのに対して、21世紀以降は他国へ影響を与えられるテクノロジーをどれだけ持っているかがこれまで以上に重要になっています。現にアメリカは豊富なテクノロジーを武器に多くのグローバル企業を生み出し、引き続き重要なポジションを担っています。一方で中国は国内のテクノロジーに投資し、結果として諸外国が無視できないほどの存在感を得るまでに至っています。

他国と対等に渡り歩くためにも、確固たる技術を持つ必要があるのが今の社会であり、そこに投資しなければ、日本は衰退する一方だという危機感を持っています。

支援の形と領域を大きく変えたHAX Tokyoの2023年

ーー今年のHAX Tokyoについても振り返りをお願いします。

岡島:バッチ制から通年採択になり、オンライン・オフラインでの相談窓口を通年で運用す
るようになった結果、スタートアップとの接点が著しく増えた印象があります。この流れを維持しながらも、今まで以上に新しいスタートアップと話す機会を増やしたいと思います。

ーー今年はスタートアップだけでなく、HONDA IGNITION Studioとの連携など大企業とのコラボレーションもスタートしましたね。

廣畑:HAX Tokyoに限らず大企業からのスピンアウトを重視するVCが増えていますよね。HONDAとのコラボレーションを通じて、熱量が高く課題意識の強い方が非常に多いことを再確認しました。

そういった大企業からのスピンアウト/カーブアウトに対して、海外VCとしてのグローバルスタンダードに沿った投資を行うSOSVと、総合商社として業界横断の事業創造に貢献出来る住友商事グループ、そしてスタートアップに対する造詣の深いエキスパートが集まったHAX Tokyoが貢献できることは多々あると思います。

一方で多くの大企業の新規事業担当者や、アクセラレーションプログラム担当者は常に悩みながら、自分たちの進むべき方向を模索しています。一社では解決できない課題も、企業同士がつながることで前進できる可能性があるので、今後も企業間連携は継続するつもりです。

藤牧:IVSでとあるVC担当者と話した際に、HAX Tokyo卒業生の話になり、投資を検討するにあたって私たちのnoteもチェックしていたと伺いました。

卒業生の中には海外への進出に加え、国内での事業開発が具体的に進捗し、今後の活躍が期待できるスタートアップが増えています。個人的にはHAX Tokyoが日本のハードテック・スタートアップにおける「トキワ荘」のような存在になったらいいなと思います。

細内:GUGEN 2023にHAX Tokyoがスポンサードした際、展示会でさまざまなスタートアップやスタートアップ予備軍の方々の作品を見て、日本の強みであるハードウェアを復興させる気運を改めて感じました。私たちもスタートアップのハブとして、国内のスタートアップシーンを盛り上げていきたいですね。

市村:今年は新型コロナウイルスのパンデミックが落ち着き、卒業生も交えたミートアップを開催する機会もありました。今後HAXに関わったことがある方だけでなく、他のスタートアップの方、これから起業を考えている方、大学や研究機関などのアカデミア分野、事業会社の新規事業開発などを担当される方も気軽に参加してみたくなるようなカジュアルな機会も増やして、HAX Tokyoのコミュニティをより充実させたいですね!

取材・文:越智岳人(シンツウシン)

座談会参加メンバー

ディレクター

市村慶信(株式会社プロメテウス代表取締役)
大学卒業後、半導体営業として電子機器製造のサプライチェーンの理解を深める。その後、2007年から電子部品商社の経営企画部門に移り会社経営に従事しながら経営の立て直しとベンチャー企業への経営支援や提案を実施。ロールモデルになるようなスタートアップが生まれるサポートをしたいと言う想いで2014年に株式会社プロメテウスを創業。これまでの経験を活かし国内外で複数のスタートアップ、広告代理店などを中心に非製造業のプロジェクトの立ち上げ・事業化サポートを行っている。

岡島康憲(ファストセンシング株式会社)
電気通信大学大学院修了後、ビッグローブ株式会社にて動画配信サービスやIoTシステムの企画開発を担当。
2011年、岩淵技術商事株式会社を創業。自社製品開発やIoTシステムの企画開発に関する支援を行う。
2014年、DMM.make AKIBA立ち上げに参加。エヴァンジェリストとして情報発信や企画を行う。
2017年、IoTセンサー向けプラットフォームを提供するファストセンシング株式会社を創業。
2019年より個人事務所を立ち上げ。
日本国内ハードウェア起業シーンを盛り上げたいという意志のもと、ニュートラルな立場で様々な活動をおこなっている。

住友商事

廣畑純平
2015年入社。デジタル事業本部にて、当社CVCにおける海外ポートフォリオの国内新事業開発業務に従事。その後国内SIerに出向し、通信・メディア業界向けに、イスラエル製基幹システム及びカスタマイズ開発の営業を担当。2022年より住友商事に戻り、現職。

重久翔守
2016年入社。人事部・人事厚生部にて、採用業務、人事制度改訂プロジェクト、労務健康管理等に従事。2022年に異動し、GCVC関連業務、アクセラレーションプログラムの運営に携わる。

藤牧友
2020年入社。入社以降、一貫してHAX Tokyoの担当として、スタートアップ投資・事業開発に携わる。その他、住友商事がベトナム・北ハノイで開発を進めているスマートシティプロジェクト、アフリカでボーダフォングループと取り組む新規事業や、Web3分野でのプロジェクト等にも従事。

細内梨央
2023年入社。大学では理系院生として、乳酸菌が出す「何が、どのように」ヒトに良い影響を及ぼすか解明を目指し研究に励んだ。研究や新技術を生活者に還元できるようなビジネス創出に憧れて住友商事に入社。ハード&ドライ領域だけでなく、ソフト&ウェット領域にも興味を持ちながら、当部門で新入社員として修業中。

スタートアップ向け壁打ち相談会(対面・オンライン)のお知らせ

HAX Tokyoでは、グローバル展開を目指すハードウェア スタートアップや、これから起業を目指している方向けのカジュアルな壁打ち会を実施しています。

HAX Tokyoのメンターが相談をお受けしますので、ぜひお気軽にご相談ください。

【相談できることの一例】

  • 資金調達を成功させるためにピッチ資料を改善したい

  • ​開発 設計など製造面での課題があり相談にのってほしい

  • PoCの良い進め方、いいプロトタイプ(MVP)の作り方を教えてほしい​

  • 企業との事業連携や事業開発をうまく進めるためのコツを知りたい

なお、HAX Tokyoへのエントリーやお問い合わせも、こちらの相談会でお請けしています。詳細は下記サイトからご確認ください。