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クムリポ /概説と訳出先

ここでは、本アカウント上に掲載されているクムリポの概説、訳出先を記載します。

[クムリポについて]
クムリポは、ハワイ王国が編纂したハワイ語による叙事詩です。もともとメレ(歌)とフラ(踊り)によって王家に語り継がれた物語ですが、1889年、第七代国王カラカウア王によって文章化、一般公開が行われ、第八代リリウオカラニ女王の英訳をきっかけに広く知られるようになりました。今回の翻訳における訳出・参照文献は以下の通りです。

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・“The Kumulipo: English Edition”(Queen Liliuokalani / Kindle)
・“The Kumulipo, a Hawaiian Creation Chant”(Martha Warren Beckwith / University of Hawaii Press)
・“Ulukau: The Hawaiian Electronic Library”
・“ハワイ語-日本語辞典”(Mary Kawena Pukui [著]西沢佑[訳]/ 千倉書房)
・”ハワイ語-日本語辞典” 令和元年電子版(mtos社)
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この内、以下の文献・翻訳サイトがインターネット上で閲覧可能です。

カラカウアテキスト(クムリポ原文)
クムリポ英訳(リリウオカラニ版)
クムリポ英訳(ベックウィズ版)
ハワイ語辞典(ハワイ語- 英語)/Ulukau
ハワイ語 - 日本語辞典/mtos社

訳文の照合には、リリウオカラニ、ベックウィズ両者の英訳を参照し、原典と相違が見られた場合は、ハワイ語からの訳を優先させて頂きました。

[ハワイ語の文法構造]
原則として、動詞(V)+主語(S)+目的語(O)の語順になります。ただし、詩韻を踏むために厳密にこの形でない場合もあります。文章全体の翻訳結果から内容を判断していく必要があるでしょう。

[ハワイ語特有の記号]
ハワイ語には、二つの特徴的な記号があります。オキナとカハコーと呼ばれる発音記号です。オキナは文章上で「’」の形で表され、付された音を喉を閉めて発音します。(日本語でいう小さな「っ」に似ています。)カハコーは長音記号と呼ばれるもので、アルファベットの上に横棒「–」をつけて、その音を長く伸ばすことを示します。原典においてはカハコーが省略されているため、本文から単語を見つけて、カハコーが来る箇所を探し出す必要があります。今回の翻訳ではnoteに記事を公開するにあたって、訳文中へのカハコーを省略させて頂きました。必要とされます方は「形態素とカハコー」の項をご参照ください。

クムリポ:形態素とカハコー

オキナの位置は出来る限り原文を尊重しましたが、欠損が認められる、或いは省略されたと考えられる箇所には[]中にオキナを示し、文章内に表記しました。

[冠詞・前置詞・接尾辞]
ハワイ語に見られる冠詞・前置詞・接尾辞として代表的なものを示します。
ーーー
[冠詞]
a ka ke
[前置詞]
i (〜によって・〜のそば・〜の上)
ia (彼[彼女]は・それは・この・その)
na (〜によって・に属する)
o (〜の・〜からの)
[接尾辞]
-na
ーーー
これらを押さえたら、文章中の単語を見つけます。いくつかの単語が組み合わされた言葉は、翻訳するために一つずつ分解していきます。

この叙事詩のタイトルとなっている”クムリポ”を例にとります。拙訳では、“暗い青の起こり”としましたが、その音節は以下の通りです。

Kumu-lipo(クム - リポ )
kumu(クム)・・・土台・原因・起源・発端
lipo(リポ)・・・(洞窟・海・密集した森林の)暗い色・青黒・ぼんやりとした

もう一方で、“Ku-muli-po”と区切ってみます。
「クー/ムリ/ポー」と歌った場合です。単語の意味を見てみましょう。

Ku-muli-po(クー - ムリ - ポー)
ku(クー)・・・立つ・(船の)停泊・舞い上がる・現れる・(ある状態に)とどまる・群れをなして進む・用意[準備]の出来た
muli(ムリ)・・・〜の後に・〜の後に続いて
po(ポー)・・・夜・暗闇

今回は「夜に続いて現れる」と訳を充てました。ku(クー)の様々な用法に注目して下さい。

こうした言葉遊びや隠喩(ハワイ語で”カオナ”と呼びます)を重ねながら、最終的に全ての意味を総合してクムリポの全容が浮かび上がっていきます。

一つの文章内に複数の訳例が存在しますが、これらはお互いに対立するものでなく、クムリポを補完する手立てとなるものです。今回の訳は、一つのサンプルと思っていただけましたら幸いです。また、読者の方々からもクムリポの翻訳に携わる方が出てきていただければ、これ以上のことはありません。

クムリポは、一つ一つのパズルのピースを自分で繋げる必要がある神話です。それは、ともすればすぐに答えを求めがちな私達に「自分で考える」ことの大切さを気付かせる、クムリポからのメッセージでないかと訳者は受け取っています。

この翻訳を、クムリポとハワイ語の継承に尽力された三名の女性に捧げます。
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リリウオカラニ女王
Queen Lili’uokalani
メアリー・カヴェナ・プクイ氏
Mary Kawena Pukui
マーサ・ウォーレン・ベックウィズ氏
Martha Warren Beckwith
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・お気づきのことや、ご質問等がございましたら、note下部にある『クリエイターへのお問合せ』から、お願いいたします。) 

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